第7話 戦士vs戦士
「7……8……!!」
早朝。
早起きして腕立て伏せをしていたのだが……、
「9……10!」
そこで限界がきて、カーペットに倒れ込む。
「……冗談だろ。僕が腕立て伏せ10回でバテるなんて」
前世の体なら際限なくできたというのに。
駄目だ。こんな体……僕の体じゃない(その通り)。鍛え直す。
腹筋とスクワットをした後、屋敷の玄関へ足へ運ぶ。
外に出ると、庭掃除をしているメアちゃんが居た。
「おはようございます、ご主人様」
「おはよう、メアちゃん」
「どちらに行かれるのですか?」
「ランニングだよ。ちょっと平民街の方まで行ってくる。今日ってなにか予定はあったっけ?」
「いえ。今日は勉学も魔術も剣のお稽古もお休みです」
「よーし、1日中みっちり鍛えられるね」
僕はメアちゃんの首から下、昨日傷が酷かった胸元の方を見る。
「そうだ、怪我の調子はどう? 痛い所はない?」
「は、はい! ご主人様の魔術のおかげで、傷は完治しました。ありがとうございます」
「……感謝の言葉はいらないよ。僕がつけた傷だ。本当に悪かったね」
深々と頭を下げる。
「お、おやめください! ご主人様が私などに頭を下げるなんて……!」
「いいや、この程度の謝罪じゃ全然足りない。贖罪の方法はちゃんと考えておくから。それじゃ、行ってくるね」
僕は門の方へ走り出す。
「い、行ってらっしゃいませ」
---
ロクでもない領主の街にしては〈アルレシア〉の街は自然も適度にあって美しい。今日は天気もいいし、絶好のランニング日和だ。
街の地理を頭に入れつつ、貴族街から平民街へ足を運ぶ。
「ぜぇ、はぁ……!」
やっぱり体力も酷いな……もう息が切れてきた。
「あれは……」
平民街にある花屋の前で、知った顔が歩いていた。赤い髪の少女――シエンナちゃんだ。手に花束を持って、暗い顔をしている。
「おはよう。シエンナちゃん」
「あっ、ハモン様……」
「どうしたの? 顔色が悪いけど……」
「いえ、なんでもありません」
明らかになんでもなくないけど、これ以上詰め寄っても教えてくれないだろう。なんせ今の僕はハモンだ。
「……ハモン様は、まさかランニングをしているのですか?」
「うん。これからは前衛を張るつもりだからね。体力づくりしないと」
シエンナちゃんの視線が僕のジョブバングル、戦士のジョブバングルに移動した。
「そんな、危険です! おとなしく後衛に居てください! あなたの身に何かあったら私たちがどうなるか……」
「大丈夫大丈夫、心配はいらないよ。足を引っ張るようならおとなしく後衛に下がるさ」
「でも!」
「心配してくれてありがとう。じゃあ、またね」
ランニングの続きを始める。
「別に……あなたの心配をしているわけじゃ……」
それからまたしばらく走っていると、今度は一軒家の前で木剣を振っているゼイン君を見つけた。
「ゼイン君」
「む……これはこれはハモン殿。一体何用で?」
ゼイン君は邪魔虫を見るような目で僕を見る。
「ちょっとランニングしてたんだ。ゼイン君は1人で剣の稽古?」
「ええ、まぁ。それにしてもなぜ今さらランニングなど……」
ゼイン君はそこで僕のジョブバングルに気付く。
「……まさかとは思いますけど、前衛に出るつもりですか?」
ゼイン君の目には怒気がこもっている。
「前衛は俺1人で十分です」
「基本4人パーティなら前衛は2人だよ」
「……今さらアンタがそれを言うか。駄目だ、認められん。前に出られると邪魔だ」
ゼイン君の声色が徐々に強くなっていく。
やっぱりゼイン君もシエンナちゃんと同じ意見か。そりゃそうだ、お荷物は後ろに居てくれた方がありがたい。
口で説得するのは難しいだろうな……よし、この体でまだ剣を握ってなかったし、ちょうどいいかな。
「じゃあこうしよう。これから僕とゼイン君で剣の仕合をして、僕が勝ったら僕が前に出ることを許してほしい」
「冗談でしょう。アンタが、俺に剣の腕で敵うと思っているのか?」
「思ってなければこんなこと言わないよ」
ゼイン君は狼の如き眼光で睨みつけてくる。
「……大怪我をしても知りませんぞ」
ゼイン君は家にもう1本木剣を取りに行き、僕に投げ渡す。
「ジョブバングルは使用しますか?」
「そうだね。もちろんアームは禁止ね。先に木剣を胸・首・頭のいずれかに叩き込んだ方が勝ち、でどうかな?」
「いいでしょう」
僕とゼイン君は互いの戦士のジョブバングルに指で触れ、魔力を込める。。
「「“武装解凍”!」」
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