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第3話 〈アルレシア〉の街

「え……ハモン様、魔術使えたんですか?」


 ヘーゼルちゃんが聞いてくる。魔導士にする質問とは思えないな……。


「昨日習得したんだ。上手く発動して良かったよ」

「元気そうではありませんか。その調子なら盗賊団退治に行ってもよいのではないですか?」


 丁寧な口調でゼイン君が言ってきた。


「いいや、本調子には程遠い。君もそうでしょ? ゼイン君」


 僕に指摘され、ゼイン君は目を細めた。


「はて、なにを言ってらっしゃるのかわかりませんね」

「右足首、捻挫してるね。誤魔化して戦ってたみたいだけど、無理はよくないよ」

「!?」


 ゼイン君は苦い顔をする。

 ヘーゼルちゃんとシエンナちゃんはゼイン君の足首の方へ視線を寄せた。


「ゼイン、本当?」

「……昨日の修行でちょっとな」

「あちゃー……癒しの鱗粉は切り傷や擦り傷には効くけど、内部的な損傷……捻挫には効き目ないんだよね」

「しかし、まさかハモン殿に看破されるとは。一体どうなさったのですか? まるで人が違う」

「ホント……さっきまでと口調も全然違います。いつもはもっと乱暴な言葉遣いなのに」


 そう言って、シエンナちゃんは疑いの目を向けてくる。


「僕も貴族として、言葉遣いには気を使おうと思ってね。それじゃ街に戻ろうか。ゼイン君、歩けるかい?」

「心配はいりません。ここまでも問題なく歩けているでしょう」

「そっか。無理はしないでね」


 ゼイン君は額に指を当て、首を横に振る。


「やれやれ……調子が狂う」


 僕たちは(きびす)を返し、街へと帰っていく。

 ひとまずこれで、最悪の未来は回避できたのだろう。


 

 ---



 森を抜け、〈アルレシア〉の街に来た。周囲を壁で囲まれた城壁都市。

 懐かしいな。〈アルレシア〉の街には10年前にも(おとず)れたことがある。たしかあの時は街中に盗賊団があって、それを掃討したんだっけか。考えてみると、あの時の残党が〈サルマン山岳地帯〉に居座っているのかもしれない。


 〈アルレシア〉は特別栄えてもいなければ特別貧困でもない。特徴的なのは貴族と平民で住む場所が完全に分けられているところ。貴族街、平民街の二層でできているのだ。


 だからと言って別に貴族と平民で仲が悪いわけでもない。金銭的価値観が合わない者同士住み分けることで衝突を最低限に抑え、必要な時だけ協力する。理想的ではないが良い共存関係だろう。


「それでは、我々はこれで失礼します」


 ゼイン君が言った。

 うーん……ここで解散するのは困るな。なんたって家の場所がわからない。


「悪いけどシエンナちゃん、僕を家まで送ってくれないかな? まだ気分が優れないんだ」

「……はい、別に構いませんが」

「良かったねー、シエンナちゃん。ご指名だよ~」


 ゼイン君とヘーゼルちゃんは平民街へ、僕とシエンナちゃんは貴族街へと向かう。

 平民街は畑があったり酒場があったり、多様性に溢れた街並みだ。

 しかしそこを抜けた先、貴族街に来ると途端に荒っぽい店はなくなる。美術館だったりワインの専門店だったり、一気に高貴な街並みになる。噴水や銅像といった物も見えるようになる。一軒家の大きさも全然違うな。


 だからと言ってこっちに住みたいとも思わない。平民出の僕にとっては平民街の方が落ち着く。恐らく平民街に住んでいる人たちも同じことを思っているだろう。


「ねぇ、シエンナちゃんとヘーゼルちゃんとゼイン君はどういう関係なの?」

「はぁ? なにを今さら……私たちは共に平民街で育った幼馴染ですよ」


 予想通りだ。

 しかし平民で子供なのにみんなジョブバングルを持ってるし、身なりもきちんとしている。きっとハモンから金を貰ってそれで買ったんだろうな。もしくはハモンが渡したのか、まぁどちらでもいい。


「みんな騎士を目指してるのかな?」

「どうですかね。ゼインは間違いなく騎士志望ですけど、ヘーゼルは遺跡の研究さえできれば良い子なので、騎士にこだわってはないでしょう」

「シエンナちゃんは?」

「私は絶対に騎士になります。私には憧れの騎士が居て……」


 シエンナちゃんはなぜか口ごもり、頬を(ほの)かに赤く染めた。

 かと思えば強気な眼で僕を見てきた。


「……あの、本当になんなのですか?」

「なにが?」

「私たちに一切興味なかった癖に、いきなりそんな質問……なにを企んでいるのですか?」

「別になにも企んでないよ。君たちのことをもっと知りたかっただけさ。仲間としてね」


 シエンナちゃんは突然立ち止まり、睨むように僕を見る。


「あの、なにを勘違いしているのですか。あなたは私たちの雇い主であって仲間ではありません。私も、ゼインも、ヘーゼルも、あなたを仲間だとは思ってませんよ」

「……そうなんだ」

「あと、もうあなたの家に着いてますけど」


 シエンナちゃんはすぐ傍にある屋敷に視線を送る。

 ここがハモンの家か……想像の3倍大きいな。


「それでは私は失礼します」


 シエンナちゃんは軽く会釈して平民街へ向けて歩いて行った。

 とりあえず、パーティメンバーの性格は(おおむ)ねわかった。


 例え相手が雇い主でも自分が気にらなければ否を叩きつける程気の強いゼイン君。

 逆に報酬のためなら気に入らない相手でも良い顔をするヘーゼルちゃん。

 真面目で、疑り深いシエンナちゃん。


 全員に共通するのはハモンに対して一切敬意も友情もないということだ。


「まったく……僕が尻ぬぐいしなくちゃいけないのか」


 僕が選んだ人生だからな……エンマ様に文句も言えない。

 エンマ様は『パーティを支えろ』と言っていた。そのためにはパーティ仲の改善は必須だな。

 せめてこの屋敷の人間はハモンに好意的であってほしい。そんな淡い希望を抱いて、僕は門をくぐった。

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