第18話 アルレシア強襲 その1
キドを待っている間に僕は現在の状況を整理していた。
もしもだ、もしも90名全員がジョブバングルを持っていた場合、その能力の多寡にもよるが警護団では太刀打ちできないかもしれない。
10年前戦った紅の盗賊団は高位職こそダールホーデンだけだったけど、結構な腕前の人間が多かった。
警護団は酷い言い方をすると王立騎士団より弾かれた落ちこぼれの集まり。〈アルレシア〉はダンジョンを保有していないし要地でもないため、王立騎士団の駐屯兵も居ない。真っ向から戦ったら……〈アルレシア〉は守り切れないかもしれない。あくまで、こちらの戦力が警護団だけだった場合の話だが。
グレン団長は強いけど、正直ダールホーデンの方が手練れだった記憶だ。そもそも〈アルレシア〉の警護団でなんともできなかったから10年前、僕が派遣されたのだ。
と考え込んでいると、
『シノ~~~~!!!!』
キドが凄い勢いで飛んできた。
「キド? なにを慌てて――ぶは!?」
キドが顔面に激突してくる。
「いてて……どうしたの?」
『大変だ! 盗賊団の半分が、父上を狙って〈アルレシア〉に向かってる!』
「……なんだって?」
話を聞きながら、山を下っていく。
「なるほど。全員がジョブバングルを……」
『た、たったの半分の人数だから、警護団がなんとかしてくれるよな! な!?』
「……どうかな? 半分の数で落とせると踏んだから、そのザイールって奴はそれだけの人数を連れたんじゃないのかな。話を聞く限り、ザイールは参謀的役割、もっと人数も引っ張られたでしょ」
『どどどどうするんだ! メアが、メアが危ないぞ! ザイールってやつ、女子供にも容赦しないって……!』
「落ち着いて。考えてもみなよ。僕らは北門からまっすぐこの山岳地帯に来た。なのに盗賊団とは出会わなかった。彼らはきっと山岳地帯を西に迂回して、人目が少なく貴族街の近い西門へ向かったんだ。かなりの遠回り。まだ間に合う」
山岳地帯の入り口に戻り、ゼイン君たちと合流する。
「おい、なにをそんな急いでいる?」
「なにかあったのですか?」
「移動しながら話す。とりあえず、走るよ!」
パーティを引き連れ、森を走る。
「グゲェ!!」
「邪魔だ!!」
戦士のジョブバングルを起動し、出現する魔物を瞬殺していく。
先頭を走りながら偵察の結果を3人に伝える。
「そんな!? 〈アルレシア〉に盗賊が……!」
「ふん、盗賊風情が舐めた真似をする」
「はぁ……はぁ……ハモン様の予測通りだと、今頃着いているでしょうね……!」
息切れを挟みつつヘーゼルちゃんが言う。
それから10分して、僕らは北門に到着した。
――街の様子は悲惨なものだった。
暴れる盗賊たち。惨殺される平民。荒らされる家。
あちこちから火が上がっている。
「酷い……」
「あちゃー、これもうボクらだけじゃどうしようもなくない?」
老人の髪を引っ張りまわす、剣を装備した盗賊が視界に入る。
「おらおら! 俺たちに歯向かう奴らは皆殺しだぁ! 殺せ殺――」
僕は背後からその盗賊の首を切断した。
シエンナちゃんはその光景を見て顔を青くした。キドもだ。ゼイン君とヘーゼルちゃんは小さく汗をかいている。僕が、ハモンが平然と人を殺したからだろう。
「……僕は家に戻る。君たちは平民街にいる盗賊を倒すんだ。別れず、3人1組で戦うように」
「は、ハモン様1人で行くなんて無茶です!」
「そうだ! お前の話が本当なら、領主の家には奴らの本丸が居るんだぞ!」
「大丈夫だよ。僕、強いから」
笑顔でそう言うと2人は言葉をひっこめた。ここに来るまでに魔物を瞬殺したのが効いたかな。
僕は3人と別れ、1人と1匹で領主邸に向かう。
「キド。家に着いたら君はメアちゃんを探せ。僕は領主殿を探す」
『わ、わかった!』
家に着く。
庭が荒れ、門が無造作に開けられていることからすでに盗賊が侵入したことがわかる。
平民街はやはり陽動か。平民出身が多い警護団はあっちを優先してしまう。それを利用し領主邸を手薄にしたのだろう。作戦は成功している。
『シノ! あの鎧を着た死体……』
「警護に当たってた兵士だね。キド、君は一階を回ってメアちゃんを探して。僕は二階の執務室に行く」
『わかった!』
家の中に入ると、すぐさま左右からナイフを持った男が2人襲ってきた。
無音の奇襲。だが、僕は2人の奇襲を躱し、首筋を一瞬で斬り裂く。
「なっ!?」
「完璧な奇襲だったはず……!」
「見張りが居るとすれば門の近くかここしかない。仕掛ける場所があからさますぎる」
いやでも警戒するさ。
「キド、ここでお別れだ。メアちゃんを頼む!」
『ま、任せろ!』
キドと別れ、階段を上がっていく。
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