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悪役令息に転生した聖騎士は鬼スピードで周囲の信頼を回復させていく  作者: 空松蓮司@3シリーズ書籍化


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第15話 天然タラシ

「駄目だ」


 執務室。

 豪勢な椅子にハモン父は座っている。机の前にいる僕に視線を合わせず、指につけた指輪を撫でている。


「盗賊団のせいで平民街はかなりの被害が出ています。ここで対策しないと盗賊団はさらに強気に出てくるでしょう。今の内に護衛団を動員するべきです」


「我が護衛団は私を守るために存在する。街の外に出すことはできん」


「……護衛団は街を守るために存在するはずです」


 ハモン父は眉をピクリと揺らし、つまらなそうな目で見てくる。


「私はこの街の(ぎょく)だ。私を守ることがイコール街を守ることに繋がる」


 この男がいなくなったところで街が機能停止になることはない。それどころか上手く回る気がする。

 ただ、怒りに任せてそんなことを言えば交渉は難しくなる。ここは堪えろ。


「このまま盗賊団が勢力を伸ばし続けた場合、彼らの刃は必ず貴族に向きます。ひいては領主である父上にも矛先が向くのです」


「突飛な話だな。たかが盗人一派に護衛団が敗北するはずがない」


「……平民街の人たちを見捨てるつもりですか?」


「いいや、そういうわけじゃない。もう忘れたのか? 私はすでに盗賊団を潰すための部隊を編成していただろう?」


「それは……たった4人の、僕のパーティのことを言っているのでしょうか?」


「無論だ」


「……」


「話は終わりか? ならばとっと立ち去れ。妾の子であるお前と話していると妻の機嫌が悪くなるのだ」


「――失礼しました」


 コイツと話しても無駄だと思った僕はおとなしく引き下がった。



 ---



『どうだった?』


 自室に戻り、キドラに執務室での会話を教える。


『やはりだめだったか……』


「あの人を説得するのは無理だね」


『それじゃ、僕のパーティで盗賊団を討伐するのか?』


「まだその判断は早いよ。護衛団の本部に行ってみよう。力を貸してくれるかもしれない」


 屋敷を出て貴族街と平民街の境目にある護衛団本部へ足を運ぶ。

 城のように強固な防備の本部だ。門番に話しかけ、護衛団の団長に話を通してもらう。ハモンの身分の力もあって団長室に簡単に通してもらった。


「失礼します」


 ポケットにキドを忍ばせ、団長室に入る。


「これはこれはハモン様、お久しぶりです」


「お久しぶりです。グレン団長」


 この人はグレン=ロゼッタ。警護団の団長だ。ハモンも何度か面識があるらしい。

 実は僕の、シノヴァンの顔見知りでもある。


 それぞれの領地の警護団は王立騎士団の傘下である。警護団から王立騎士団に昇格する者も居れば、王立騎士団から警護団に左遷されることもある。中には警護団であることを誇りに思い、昇格の話を蹴る者もいる。グレン団長はその部類だ。実力的には王立騎士団に入れるが街を守るためにここに残っている。


 炎のように赤い髪で、筋肉質。右腕に戦士のジョブバングルを、左腕に狩人のジョブバングルをつけた破弓士(シャープシューター)だ。


 正義感や義理に厚い人物だと記憶している。


「前回のルーザウス様の生誕パーティー以来ですかね」


 ルーザウスとはハモンの父親の名前だ。


「そうですね。思い出話も結構ですが、今は急を要する話がありまして」


「承知しております。ささ、どうぞ」


 グレン団長が座るよう手で促してくる。

 ソファーに座り、グレン団長と向かい合う。


「〈サルマン山岳地帯〉の盗賊団についてです。すでに平民街に被害が出ていることは聞きました。盗賊団打倒のためにも、警護団の力を借りられないでしょうか?」


「……」


 グレン団長は呆けた面持ちで僕の顔を見る。


「どうしました?」


「いや……見違えましたな。まさかハモン様が平民である我々を気遣ってくださるとは。それに言葉遣いも以前とはまるで違い、丁寧です」


『……僕の言葉遣いが気に入らないなら直接言えばよかっただろう』


 キドはいじけ気味に言った。


「失敬、余計な話でしたね。盗賊団の討伐については、我々も出向きたい気持ちは大きいのですがルーザウス様に止められておりまして」


「……やっぱりか」


「ルーザウス様の手の者が日に3度、警護団の点呼に来るほどの徹底ぶりで動けそうにないのです。おそらくルーザウス様も盗賊団を恐れているのでしょう」


「領主である父を盗賊が狙う可能性は高いですからね。父の身柄を確保されればほとんどの要求を通すしかなくなる」


「その通りです」


「わかりました。では、盗賊団の情報提供だけでもお願いしていいですか?」


「はい。盗賊団は(くれない)の盗賊団と名乗っており、リーダーは隻眼の男ダールホーデン。相当な実力者です」


「ダールホーデン!? 奴は10年前に僕――じゃなくて、シノヴァン=エレクセスが倒したはずです!」 


 そう10年前、僕がまだ18歳だった時、僕は単独で紅の盗賊団と戦った。

 ほとんどの盗賊を撃破し、リーダーのダールホーデンも倒した。奴の左眼を斬り裂き、崖から落とした。まさかアレで生きているのか?


「詳しいですね。10年前、シノヴァン殿が王都より派遣され、紅の盗賊団は一度滅ぼされました。しかしダールホーデンはシノヴァン殿に瀕死に追い込まれるも生き残ったのです。それから数年は、おそらく体の治療に集中していたようですが……」


「最近になって回復し、また紅の盗賊団を立ち上げたというわけですか」


「はい」


「……盗賊団の人員は?」


「部下の報告によると、およそ90名」


 警護団はおよそ200名。警護団を動員できればなんとかできる数だな。


「しかし、問題は……」


「どれだけのジョブバングルを所有しているか、ですね」


 ジョブバングルの数で戦力は大きく変わる。

 もし90人全員がジョブバングルを持っているのなら、相当厳しい相手になる。

 僕が考え込んでいると、コンコンと部屋をノックする音がした。


「誰だ?」


 グレン団長が扉越しに問う。


「お父さん、私。シエンナだよ」


 扉越しに聞こえた声はハモンパーティの1人、シエンナちゃんだった。


「シエンナちゃん? それにお父さんってことは……」


『グレンはシエンナの父だよ』


 そういうことは予め言っておいてほしいな……。

 グレン団長がシエンナちゃんを入れていいかどうか目配せで聞いてくる。僕は頷き、『どうぞ』の意を示す。


「入れ」


 グレン団長の許しを得て、シエンナちゃんが部屋に入ってくる。


「失礼します……って、ハモン様? どうしてここに……」


「ハモン様は例の盗賊団について、私に相談しに来たのだ」


「嘘……あのハモン様が?」


 シエンナちゃんの態度に、グレン団長は難色を示す。


「失礼な言動は慎め。それで、何の用だ?」


「あ、ほらお弁当。忘れていってたから」


「そんなもの、部下に渡してくれればいいというのに……」


「ちょっと、そんな言い方なくない!? わざわざ届けに来たのに!」


「そうですよグレン団長。今のは良くないです」


「うっ……そうだな。悪かった」


「シエンナちゃん、ちょうどいい。君も一緒に話を聞いてくれ」


「え? あ、はい。わかりました」


 シエンナちゃんが隣のソファーに座った。


「盗賊団の戦力把握のために、僕、ゼイン君、シエンナちゃん、ヘーゼルちゃんの4人で偵察に行こうと思います」


「なに!? そ、それは認められません! 危険すぎます」


 グレン団長はシエンナちゃんに視線を移す。

 シエンナちゃんは真っすぐな瞳で見つめ返す。


「話の流れはよくわからないけど、盗賊団を倒すためなら……やるよ、お父さん」


「し、しかしだな……」


「大丈夫です。細心の注意は払います。娘さんは僕が命に代えても守りますよ」


「は、ハモン様……?」


「なんと……!」


 なぜかシエンナちゃんもグレン団長も頬を赤く染めた。


「なにか、変なこと言いましたか?」


「い、いや……そこまでの覚悟なら、お任せします。――シエンナ。ハモン様はああ言ってくれているが、お前が命がけでハモン様を守るのだぞ」


「は、はい! お父さん」


「明日早速偵察に行こう。シエンナちゃんはゼイン君とヘーゼルちゃんに声をかけて。北門に朝の9時集合でお願いね」


「わかりました」


 話がまとまり、キドと一緒に護衛団本部から出ると、


『おいシノ! お前……メアの時も思ったが、僕の体で大胆なセリフを吐くな!』


「大胆なセリフ?」


『“君を幸せにする”だとか、“命がけで守る”だとか、こういうセリフだ!』


「? そんなに大胆なセリフかな? 別に、思ったことを口にしただけだけど」


『……じ、自覚がないのかお前。なるほど、これが天然タラシというやつか……』


 キドはやれやれと肩を竦めた。

 一体キドがなにに呆れているのか理解できない。

【読者の皆様へ】


この小説を読んで、わずかでも


「面白い!」

「続きが気になる!」

「もっと頑張ってほしい!」


と思われましたらページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。

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