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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私の中心に君はいる。

作者: 夢乃間

注意


こちらの作品はほのぼのとした要素は一切ありません。読む人によっては後味が悪すぎて吐き気を催すかもしれないので、ご注意ください。

あと、よろしければ読み終わった感想など頂けましたら、それを次回に活かしたいと思います。

一週間後、私の親友である水樹が結婚する。お相手は仕事の上司で、入社当時から色々教えてもらい、お互いの趣味や優しさに惹かれていく内に、晴れて恋人になり、二年の交際の末に結婚を決めたそうだ。

結婚式を一週間に控えた今日、水樹は突然私の家に上がり込み、持ってきたビニール袋の中からお酒とジュースをテーブルに上げていく。


「久しぶりに飲もうよ。」


そう言いながら彼女はジュースの蓋を開け、ゴクゴクと飲んでいく。突然の出来事に戸惑いながらも、私も彼女の隣に座り、飲めない水樹の代わりにお酒の蓋を開けて飲んだ。


「突然どうしたのさ?一週間後に結婚式で忙しいんじゃないのか?」


「・・・私、結婚するんだよね。何だかさ、嬉しいはずなんだけど、寂しい気持ちにもなって。」


「寂しいってなんだよ。年上の夫がいるじゃないか。」


「そうだけどさ・・・独り身だった時は、晶といっつもこんな風に飲んでたじゃん。結婚したら、家事に追われて、晶とこうして一緒にいられるのも少なくなっちゃうんだと考えちゃったら、急にね。」


体育座りの体勢のまま顔を太ももにうずめながら、水樹はどこか切なそうに呟いた。そうか、結婚すれば今みたいに水樹と簡単には会えなくなってしまうんだ。そんな事、考えもしなかった・・・いや、考えたくなかった。

結婚すると連絡をもらった日、私は嬉しさよりも悲しい気持ちの方が大きかった。前々から彼氏との出来事や愚痴など聞いてはいたが、結婚するとは思ってはいなかった。私は心のどこかで、いつの日か水樹が彼氏と別れると思っていたのだ。だが現実は違い、今でもメールのゴミ箱フォルダには水樹が結婚するメールが残っている。

メールが届いた日から私は酒を飲んで眠り、翌朝メールを見て現実だと思い知らされては、イライラしたまま枕に顔をうずめて泣いた。

そんな事を毎日のように繰り返していき、一週間が過ぎた時に私は自分の本心に気付く。私は水樹の事を恋愛的な意味で好きだった事に。

しかし、それに気づいたところで今更だし、このイライラが収まる事はなかった。頑張って諦めようと思っていたが、突然水樹が私の家に来た時に胸が高鳴り、結婚したら簡単には会えなくなる事を言われて、またイライラが止まらなくなった。


「・・・私なんかとさ、会えなくなっても大丈夫でしょ?」


自分で言っておいながら、泣きたくなってしまう。けど、ごちゃごちゃになっている今の感情で出てきた言葉がこれだった。

震える手を酒の所為にしようと半分以上残っている酒を一気に飲み干し、もう一本飲もうとテーブルの上にある新しい酒に手を伸ばすと、それを遮るように水樹が私の手を握ってきた。ヒンヤリとした水樹の手の冷たさにドキッとしながら、水樹の方を見ると・・・水樹は、泣いていた。


「み、水樹・・・?」


「・・・どうして・・・どうして、そんな事言うの・・・。」


「いや、だって・・・。」


「晶は・・・私の事を嫌いになったの・・・?」


涙を流しながら震える声で私の名を呼ぶ水樹に、切なさとほんの少しの支配感が胸をうった。すると、水樹は握っていた私の手から撫でるように徐々に上へと手を動かしていき、最終的に私の頬に手を落ち着かせた。そこから水樹は何も言わなかった。ただじっと、私の目を見つめ続けている。

水樹に見つめられていると、私の胸の鼓動は早くなり、呼吸は段々と荒々しくなっていく。このまま彼女を押し倒して滅茶苦茶にしてやりたかった。きっと今の水樹なら受け止めてくれる。


「・・・嫌いだよ。」


「・・・・・・・・・え?」


水樹の目から流れていた涙がフッと止まった。私は水樹が好きだ、今この場で滅茶苦茶にもしてやりたい。だけど、そんな事をしてしまえば、きっと取り返しのつかない事になる。一度でも体を交われば、二度と元の関係には戻れない。最悪の場合、それが原因で水樹の人生を滅茶苦茶にしてしまうかもしれない。

だから私は嘘をついた。私達が二度と顔を合わせないように。そうすれば、水樹と疎遠になるだけで済むからだ。


「嘘・・・嘘だよね・・・?」


「・・・。」


「ねぇ!何とか言ってよ!」


「っ!?」


返す言葉に困っていると、水樹が私の体を押し倒し、私の体の上に乗っかってきた。起き上がろうとしたが、肩を抑えつけられてしまい起き上がれない。


「嫌だよ・・・晶に嫌われるのは・・・。」


「どいてくれ水樹・・・!」


「どいたらまた好きになってくれる?それとも結婚なんか辞めればいいの?」


「なに、言ってんだよ・・・!」


「嫌だ嫌だ・・・!晶に嫌われるのだけは嫌なの!」


肩を抑えつけてくる力が強まり、爪が肩に喰い込んで痛い。それに私を見つめる水樹の見開いた目が怖かった。


「・・・私、結婚なんてしたくなかった。だけどあの人の事を両親が気に入って、こんな事になっちゃった・・・こんな事になるなら、あの時はっきりと告白を断ればよかった・・・!」


「さっきからどうしたんだ・・・きっと疲れてるんだろ?だから―――」


「あの人は会社でも人柄が良くて、同僚の子達も好きになっていた人だっていた。告白を断れば、いじめられると思っちゃって断れなかった!だから我慢した!手を繋がれる事も!抱きしめられるのも!キスされるのも!全部全部全部!!!」


水樹の怒りとも悲しみとも取れる言葉に、私は呆気にとられていた。我慢していた?今まで話していた彼氏との幸せな話は全て嘘だったのか?

混乱する頭を整理しようと冷静さを取り戻そうとする。そんな努力を無駄にするかのように、水樹は私にキスをした。突拍子も無い事に頭が真っ白になったが、私の体は勝手に動き出し、上に乗る水樹を突き飛ばして距離を取っていた。


「水樹・・・。」


突き飛ばされた水樹は死んだように動かず、虚ろになった瞳は天井のその先を見ているように思えた。今の水樹は正気じゃない。逃げなければ、次は何をされるか・・・そんな事を思っていると、か細い声で水樹は呟いた。


「死ぬから・・・。」


「・・・は?」


「晶が私を嫌いになった・・・あの時、私が間違ったばかりに・・・だから、死んでまたやり直すから・・・。」


意味の分からぬ事を呟いたかと思うと、水樹はゆっくりと立ち上がり、窓を開けてベランダに出た。私が住むマンションは八階建てで、ここは最上階・・・水樹が何をしようとしているのかは、すぐに分かった。


「さようなら・・・またね、晶。」


「水樹!!!」




それから一週間が経った。結婚式は新婦不在という事で騒ぎになり、中止となったようだ。新婦の所在は新郎はおろか、家族ですら分からず、警察沙汰にまで発展した。

私は住んでいた場所を変え、今は北海道の人の少ない田舎に引っ越した。近所に挨拶に行こうとしたが、一番近い所で車で一時間も掛かると知り、断念した。

荷解きを全て終え、家の近くにある海に行くと、丁度夕日が海に沈んでいくのが見れた。


「綺麗・・・北海道か、随分遠くまで来たもんだ。」


幸い貯金はあるし、しばらくは海で釣りでもしようかな?


「ここにいたのね、晶。」


後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには水樹が風でなびく髪を抑えながら立っていた。あの日、投身自殺を図ろうとした水樹をギリギリの所で止める事が出来た。それから彼女を説得しようと試みたが、結婚するくらいなら死ぬ、私と離れれば死ぬと言い続けられ、止むを得ず彼女を連れて遠く離れたこの地にまで引っ越し・・・いや、逃げてきたのだ。


「荷解きが終わっても掃除が残ってるんだから、まだまだゆっくり出来ないわよ?」


「うへぇ~、掃除は苦手だよー!」


「そんな事言わないの。ここは、私の・・・私達の居場所になるんだから。」


「・・・そうだな。」


あの時、私が選択を誤った所為で沢山の人に迷惑をかけてしまった。だが、水樹は今の状況を幸せに思ってくれている。遠く離れたこの場所で、周りに人がいない中、私とずっと一緒にいられるからだそうだ。

後悔と罪悪感で潰れそうな私は、笑ってくれている水樹のおかげで正気を保てていた。


「これからずっと一緒だね、晶。」


「・・・ああ、そうだな。」


もう、後戻りは出来ない。

本当はほのぼのとした百合を書きたかった・・・。

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[一言] 確かにあまり幸せではありません
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