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王女は彼との時間を過ごす。

 これからどうするべきかの方向性を決めたが、一番にするべきことを忘れてはいけない。


 それは彼を落とさなければいけない、ということだ。


 今の私の彼への好感度は振り切っているくらいに愛していると言える。


 だが彼は今の私と出会ったばかりで、彼にとってはただの有象無象と変わりはしない。


 こういうことなら、前回彼にどうして私のことを好きになったかを聞いておけばよかったと思っているけれど、今回も彼に好きになってもらう自信はある。


 それに前回、最初に彼と出会ってから、二回目に彼と出会ったのは二週間ほど時間が空いていた。


 それはまだ王女であるからそんなに簡単に抜け出してはいけないから我慢しなければいけないし、彼に迷惑がかかるかもしれないと考えていたからだ。


 だけど後々になるにつれて、そんな考えなど捨て去って最初から早く行っていれば良かったと思っていたくらいだ。


 前回と今回とでは、彼と一緒にいる時間が増えるから彼のことをよりいっぱい知ることができるから、足取りがとても軽い。


 二回目の時は、城下町に慣れていなかったから紙をよく見ながら彼の家にたどり着いた。


 でも今は違い、彼から渡された紙をきちんと宝箱にしまって、何も見ずに城下町を歩いていた。


 その城下町は活気にあふれて賑やかで、人々がイキイキとしている幸せそうな光景だった。


 今の私の目には、この城下町の光景は酷くつまらないものにしか見えなかった。


 この城下町の人々は、前回彼が処刑された後でもこの賑わいを見せていた。


 この賑わいは結局燃え盛る国でなければいつも広がっているから、価値のあるようなものではないと判断する。


 そんなつまらない光景をなるべく目にしないようにしながら、私は城下町の東にある彼の実家である洋服屋へと足早に歩く。


 ☆


「ありがとうございます! またお越しください!」


 その声が曲がり角の先から聞こえてきたことで、彼が外にいるのだと分かった。


 私が曲がり角から顔を出すと、ちょうどお店に入ろうとしている彼と視線が合った。


 その瞬間、それだけで私の中で幸福が満ち溢れてきた。


「あっ、あなたは昨日の」

「はい! 覚えててくださいましたか?」

「それはもちろんだよ、忘れるわけがない」


 本当に私は彼にそんなことを言われただけで嬉しくなる、彼限定で軽い女になってしまった。


「今日も遊びに来てくれたのかな?」

「はい! ……ご迷惑だったでしょうか?」

「全然迷惑じゃないよ。さぁ何もないところだけど入って」


 彼の優しい笑みに脳をとかされる感覚に陥りながら、彼の後ろに続いて洋服屋に入る。


 洋服屋はこの国のすべての流行を担っていると言っても過言ではないほどの服が置かれており、ここに訪れる人は一般国民から貴族まで、幅広いとされている。


「まだやることが残っているから少し待ってもらうことになるけど……」

「いいえ、私はここにいるだけで十分です。ジェイコブさんは私を気にせずに作業を続けてください」

「そう? それならお言葉に甘えようかな」


 私はカウンターで作業をしている彼、ジェイコブ・テイラーさんの邪魔にならない程度の横に椅子を持ってきて座る。


 彼は慣れた手つきで針と糸を使ってお洒落な女性用の服を作っている。


 これを作ってもらえている女性に少しばかり嫉妬するのは、傲慢なことだと理解しているが、彼の時間を使って作られているのだから嫉妬せずにはいられない。


 彼を国専属の裁縫師として招き入れようかと思ったが、それだと城下町で反乱が起きかねないからその考えはそっとしまった。


 私は集中している彼の横顔を見て心地の良い空気が流れていることに思わず頬が緩んでしまう。


 お店の中でも少しだけ聞こえる城下町の喧騒も、この雰囲気を作り出している要因に過ぎない。


「どうしたの?」

「何でもないですよ」


 彼は私が見ていることに気が付いて優しい瞳でこちらを見てくるのを、私は少し微笑んで何でもないと答えた。


「そう? ……こんなことを見ていて楽しいかな?」

「それはもう楽しいですよ! ジェイコブさんの素晴らしい技術はどれだけ見ていても飽きませんから」

「そう言ってもらえると嬉しいな。でもまだまだお母さんを追いついていないから、これからも頑張らないと」

「ふふっ、お母さまは素晴らしいお方なのですね」

「うん、自慢のお母さんだよ」


 この時の彼の技術はすでに彼の母親を抜いているが、彼の母親は彼以上の経験値があるため辛うじて彼に勝っている状態だと、彼の母親が言っていたのを思い出した。


 彼は私との会話の中でも手は動きしており、会話がひと段落すると再び手元に集中する。


 前回ではあまり体験することができなかったこの時間。


 もし、私が王女ではなく、彼の幼馴染で彼とこんな風な時間を過ごすことができれば、どれだけ良かったことかと思っていた。


 だけど、今は違う。


 結末を知って、国のことを隅々まで知って、それを解決するだけの力を持って、私は戻ってきた。


 私は絶対に彼との幸せな時間を作り出して見せる。


 そのためにはこの国を壊さなければいけないようだが、それだけで彼との幸せな時間が作り出せるのなら、喜んで私は切り捨てよう。

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