王女の独白。③
私が人生の中で最も愛した人を目の前でなくして、三日も気を失っていた。
今でも精神的に耐えられるものではないと思うが、この腐り切った世界でその三日という時間は、すべてを手遅れにするには十分な時間だった。
私は罪人である彼に洗脳されたとして、それが解かれるまで軟禁状態になった。
それを言い渡された時の私は、彼を失ったことで廃人一歩手前で来ていた。
だが、彼を失ったことを思い出していると、彼の母親のことが頭によぎった。
彼は罪人としてでっち上げられたのだから、彼の母親が危険な目に合っているのではないかと思った。
すぐに部屋から抜け出して彼の母親の元に向かった。
私が彼と出会ってしまったせいで、彼を愛してしまったせいで彼が死んでしまったから、彼の母親から憎しみを向けられてしまうかもしれないと思った。
でも憎しみを向けてくれるのなら、私は楽になってしまう。
彼も、彼の母親も誰よりも優しくて、誰よりも人間を愛しているから、親族が死んだ原因になっても私に憎しみを向けることはない。
ただ無事でいて、そう思いながら彼の母親の元に向かった。
だが、洋服屋は見る影もなく潰れていた。
私は呆然としながら、彼の洋服屋の近くの路地裏から血の生臭さがしてくるのに気が付いた。
私は何も考えずにそちらに足を向けた。
酷い臭いの中、私は路地裏を進んだ。
最初は何匹もの魔犬が生ごみを漁っているのかと思った。
だが違った。
そこには私のことを娘のように思ってくれて、私を愛してくれていた、彼の母親がそこにいた。
すぐに魔犬を魔法で焼き払って彼の母親の元に駆け寄った。
その時にはすでに息はなく、体には魔犬がつけれるはずがない、人間が暴行した後が残っていた。
それに性暴行を受けた後もあって、私は彼の母親の冷たくなった体に縋りついて泣き叫んだ。
私にとって彼の母親は、自身の母親よりも母親だった。
私の母親は厳格な人で女王だった。
そして母親として最低限のことである、愛することをしてくれなかった。
ただ私がこの国を継ぐために厳しくしているだけだった。
彼の母親と出会って、本当の母親が、本当の家族の愛がどういうものか、それに気が付いた。
この時、私の中で私の命よりも大切な人をすべて失った。
狂いそうだった。
いや、狂っていた。
復讐という炎に焼かれていなければ、この世界に未練など一つもなかった。
ただ彼と、彼の母親をこんな死に追いやった人間が憎くて仕方がなかった。
そうしていなければ、私は自身を責めて自殺してしまいそうだった。
その時から、彼と、彼の母親に与えた苦痛以上のことを、これを行った奴らに与えようと決心した。
彼の母親の亡骸を、お花畑が一望できる丘に埋葬した。
彼の亡骸もできれば彼の母親の隣に埋葬できればいいと思ったが、結局それは叶うことはなかった。
それから、私は彼に洗脳されたと嘘をつき、それが解かれたと言って、彼の汚名に再び泥を塗る行為を行った。
兵士一人一人、国民の一人一人に、国王や女王、死刑を執行した男に、効果的な苦しみを与えるためにそれを演じるべきだと考えたからだ。
きっと私は地獄に落ちるから、天国に行く彼に死後謝ることができないと思った。
でも彼ならそんな私にも笑顔で許してくれると思ってしまった。
そこから私は彼の死刑執行者であり私の婚約者である男と結婚して、何度も吐きそうになるのを抑えて体を許した。
その間にもできるだけ苦しみを与えれるように、幻覚魔法を使って手駒を増やして情報を集めていった。
そして騒ぎにならないように秘密裏に復讐を行った。
ある時は幼い娘を目の前で拷問して、泣き叫ぶ姿を見せつけた。
ある時は新妻を目の前で複数の男に犯させて、耐えられなくなって自殺するさまを見せつけた。
ある時は体の自由を奪って、自身の母親を殺させた。
およそ人が考えれる残虐のことを平気で成し遂げた私は、人ではなかった。
彼がいれば、こんな私のことを止めてくれていた。
だがその彼は私の目の前で死んだから、私は止まることはしなかった。
ありとあらゆる人を調べていくにつれて、彼がどうして処刑されたのか、それを知った。
私の婚約者は、どうしても私のことを手に入れたかったらしく、私が愛していた彼を殺そうと企てた。
さらに民衆の中に民衆の意志を誘導する者を紛れ込ませて、国民から好印象を受けていた彼の知名度を落としてから殺した。
それを聞いた時、私は怒り狂ったりはしなかった。
ただただ、憎悪が深くなって、私の婚約者が一番苦しむ方法を考えるだけで終わった。
そして彼が処刑されてから、十年という時が経ち、私の婚約者に復讐する時が来た。
私の婚約者は私以外にも女を弄んでおり、それを自身の物だと主張するのが好きな、女のことを道具としか思っていないクズだった。
だからそのコレクションを目の前で他の男に汚させることから始めた。
私の婚約者は一番大事にしているのが妹という気持ち悪いことこの上なく、それも汚した。
泣き叫び、目をそらそうとする婚約者に目を背けないようにさせて、すべてを目に焼き付けさせた。
さらにはコレクションの女たちの一人ずつ、つま先から数ミリずつ剣で斬り落としていく。
そのこの世の光景ではないものを見ても満足しなかった私は、彼のことなど頭になかったのだろう。
彼が受けた苦しみをただ受けさせたかった、そう思っているだけだった。