08 さびれてんなぁ~
「よし、行くか。」
朝9時、俺は家を出る。
前の体なら免許を持っていたが、詩音さんは持ってなかったので歩きだ。
【まあ、そんな緊張すんなって!
ほとんど客なんて来ねえからよ。】
ほんとに大丈夫かよ...
詩音さんの家から、徒歩で10分ほどの場所にその本屋はあった。
あまりこっちの方には来たことがなかったので、ここに本屋があるなんて全然知らなかった。
結構、昔からあったような店構えで...まあ正直に言うと古い、というのが最初に見た感想だ。
【とりあえず、中に入れよ。】
詩音さんにせかされ、俺は鍵を開け店内へと入る。
「...すげぇ。」
中に入ってみると流石本屋だ、と思えるような感じに本棚にぎっしり本が詰まっていた。
世界中から珍しい本を集めてるだけあって、読めない言語の本がほとんどだったが、それでも一目見ただけですごそうだと思うような本が所狭しと置いてあった。
【ここには世界中の本がたくさんある。
その中には人体の神秘についての本や、魂について...黒魔術なんてもんもあるだろう。
こん中から探し出して、アルバイト中は自分たちで何とかできないか考えてみるぞ。】
「了~解。」
この、すごい量ある本を一つ一つ見ていかなきゃならないのか...
俺は何の本かよくわからない本を手に取り、スマホの翻訳にかけるのだった。
~8時間後~
「あ~~~分っかんねぇーーーー」
俺はこの8時間、ひたすら本と格闘したが何一つ成果は上がらなかった。
人体に関する本を探すのだって、見たことない言語で書かれたものばっかりだったから時間がかかるし、それっぽい本を見つけても中身を全て翻訳させながら見るというのはなかなか骨が折れる作業だ。
外は日も暮れかけて、橙色の光を指していた。
「そろそろ博士の方にもいかないといけないし、こっちは切り上げるか。」
【まあそうだな。】
しっかし、本当にさびれてんなぁ、この店...
俺が店を開けてから来たのは1人だけ。
しかも、入ってきたから「いらっしゃいませ~」って言っただけで驚かれたんだが?
これ、店員の接客態度にも問題があったんじゃ...
この店がどうやって維持されているのかも分かんねぇなぁ~
...そういえば俺が生きてた頃に、こういうマニアックな本が好きな友達がいたな~
常に本を持ち歩き、メガネにおさげのザ・文学少女っていう感じの見た目の子が。
でも、持ち歩いていた本の題名が「世界の珍味料理43選」だとか「サルにできた中国拳法・奥義!」みたいなのばっか読んでるやつだった。
それなのに、性格はおしとやかっていう、なんかすげぇギャップがあるやつだったよなぁ~
そんな、生きてた頃の友人を思い浮かべながら博士のもとへ行く準備をする。
ずっと座ってた腰の痛みと、目と脳の使い過ぎによる疲労で重くなった体を動かしながら店を出るのだった。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。