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異世界交差点事務所

 眩しい光が消えると見覚えのない通路にわしはいた。

 わしが立っている通路は先ほどまでいた石の通路ではなくのっぺりとした継ぎ目のない白い板で覆われた通路だ。一体ここはどこだろうか?


 その通路の先は行き止まりになっていて扉がありその前には看板らしいものが立っているように見える。



こんな所ダンジョンに看板?面妖だな。反対方向は……行き止まりか」


 どうやら先に進むしかない。

 コツコツと槍の石突で床を叩きたたきながら進む。こうやって叩くことで罠を発動させ発見する方法である。

宝箱の罠も槍を使って遠くから開ければ転送に巻き込まれることはなかった。何故そうしなかったのかと考える。が、“後悔先に立たず”である。


扉の前に立っているのはやはり看板だった。どう見ても怪しい看板である。


 看板の表面にはくっきりと文字が書かれていた。


 “異世界交差点事務所”

 ”営業時間:午前九時から午後三時まで。ただいま事業所所長は在籍中。”


 異世界交差点?なんだろう?ここが何処かにつながっているのだろうか?それともこの事務所は探索者協会の出張所なのだろうか?

 もし主張所なら帰り道を知っているだろう。場合によっては送ってくれるかもしれない……。

 だがその反面、営業時間という文字は気になる。営業時間とはいったい何なのだろうか?探索者は二十四時間以上活動することがある為、探索者協会は二十四時間年中無休だ。

 

「いくら考えてもわからぬ。他に道はない以上、先に進むしかない」


 わしはドアをノックして返事を待つ。


「どうぞお入りください」


 わしは言われるままに扉を開け部屋に入る。

 足を踏み入れた瞬間、わしの体をねっとりとした感覚、まるで濃厚な蜂蜜の中に体を突っ込んだ様な感覚に襲われる。

 この妙な感覚に何かを言おうとわしが口を開けた瞬間、口の中に塩辛い鉄さびの味が広がる。わしの目の前が真っ赤になり気分が悪くなって片膝をついてしまった。


「うきゃー!何!何!何にこの人!いきなり体から血を吹き出して!」


 甲高い声が耳に響く。吐き出したものを見ると赤い。どうやら吐血したようだ。それに片膝ついたのは血が足りなくなった為らしい。


「鑑定!鑑定!人物鑑定!……えぇぇぇぇぇ!何この魔力強度!何でそんな人が……」


 魔力強度?とやらは何かわからないが魔力のようなものなのだろうか?だったら魔法の使えないわしはかなり低いと言える。


「ああああああ!もう死にかけているじゃない!この事務所で死人を出すわけにはいかないわ!そんな事になったら監察局が……。ああもう!応急!応急!回復ヒール回復ヒール回復ヒール!うううううう、回復ヒールじゃだめね。……そうだ!この間訪れた人の魔力強度を参考に……エイヤーホイサッ!能力強化フィジカルエンチャント!」


 何やらドタバタ音がしたかと思うとわしの体を虹色の光が包んだ。

 すると先ほどまであった気分の悪さや口の中に広がった塩辛い鉄さびの味が消え去った。ただ多くの血を失ったためか頭の中はまだはっきりしない。


「……これは、回復魔法か?」


 はっきりしない頭のわしの目には紺色のスーツに身を包んだ金髪の美女が心配そうにわしの顔を見ている姿が映った。

 ただその美女は極端に長い耳を持っていた。いわゆるエルフと言われる姿をしていたのだ。


(エルフ?何だ?コスプレさんか。そういえばダンジョンの探索協会にもコスプレしている人がいたな。“ダンジョンの中でもコスプレをしている人がいる“という話を聞いたが本当にいるんだなぁ。)


 そのエルフのような人をじっと眺めているとその人はわしの顔に手をかざし魔法らしい言葉を唱えた。


「伊瀬区下記異士」


 エルフ?の手からでた虹色の光の波がわしに当たるとはっきりしなかった頭の中が明瞭になってゆく。

 ゆっくり体を起こすわしを見てエルフ?は声をかけてきた。


「大丈夫ですか?言葉は通じますか?」


「は、はい!大丈夫です!すっかり良くなりました。おっと、血を落とすか洗浄ウォッシュ


 わしは慌てて起き上がりその場で軽く生活魔法を使う。光の輪がわしの頭から足まで動き服に付いた血をきれいに落とした。


「……妙に効きが良いな?」


 いつもより早く血が落ちたように思える。それに効果も高い?いつもなら完全に落ちることはないのだが……。それとも汚れが染み込まないうちに魔法を使ったからか?

とはいえまだ完全とは言えない。“体の動きに頭がついてこない“そんな変な感覚がある。


「ほっ。それだけ動ければ大丈夫なようですね。コホン、それでは気を取り直して……」


「ようこそ、“異世界交差点事務所”、第2021特区へ。私はこの事務所受付のフォルテと申します」


 そう言ってエルフ?のフォルテさんは軽くお辞儀をした。


「それでは当事務所に来訪の用件を伺いましょう。今回はどちらの世界への案内が必要でしょうか?」


「いや、案内も何もわしがここへ来たのは初めてで……」


「そうですか、では身分証明書、探検家カードはございますか?」


 探検家?探索者と似たようなものか?そういえばこの間読んだ小説の中ではダンジョンの探索者は探検家とも言われていたな。それにフォルテさんはここを“異世界交差点事務所”と言っていた。

一般にダンジョンは異次元にあると言われている。我々が通常いる世界とは違う場所、つまり異世界だ。

 ダンジョンだとすればそんな場所に事務所を構えることができるのは探索者協会だけだろう。

 であるなら“異世界交差点事務所”というのは探索者の支援を目的とした探索者協会の出張所に違いない。

 探索者を探検家というのもダンジョン深くまで来た探索者に探検家的な雰囲気を出し緊張を和らげるための演出だ。

その為にわざわざエルフのコスプレをしているのだろう。


 わしは自分の考えに大きく頷き納得すると懐から銀色の探索者免許書を取り出しフォルテさんに渡した。

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