初級探索者
ダンジョンに入るには探索者の免許が必要になる。それ以外の方法は中級探索者以上の免許を持つ人に同伴してもらうかだ。
探索者の免許は延べ三十時間の実習時間とペーパー試験と実技試験の二つを突破する必要がある。突破すれば晴れて”初級探索者”の免許を習得だ。
まぁ、車の免許と似たような物と思ってくれたら良い。
探索者の免許は自動車免許と同じ大きさで銀色のカードの表面に名前の他に写真と使用できる能力が記載されている。
この中で能力の記載はなんでも魔法によるものらしい。その為、使用できる魔法の種類も能力の内だ。
免許発行の際に行われる検査の結果、わしが今使えるのは生活魔法だけだった。どうやらわしにスキルや魔法の才能はないらしい、残念。
だが心配することはない。レベル?(探索者カードに記載されている不思議な数字)が上がればスキルや魔法を覚えることがあるらしい。
わしはレベルを上げるためにも装備は万全にした。いつ魔物と遭遇しても良いように短槍を右手に持ち小盾を構える。他にも予備の武器として短剣、短めの剣を装備する。
(完璧だっ!)
講習時に先輩探索者から”ダンジョンでは短槍が一番使える。”と散々言われている。
にも関わらず、多くの探索者は短槍よりも長剣を好んで持つ。
尋ねてみたら”カッコいいから”と言うのや”長剣のほうが強いだろう”と言う理由が多かった。
中には“短槍なんて突きを避けて一気に間合いを詰めれば簡単に勝てる”という者もいた。
簡単に勝てるというのは”短槍での攻撃は突きしかしない”という間違った考えだ。
実際の槍使いは突いた後に間合いを詰めようとしていたなら長剣ごと薙ぎ払う。
しかも槍の攻撃で一番威力のあるのは突きではない。上からの叩きつけだ。
そもそも同じ技量なら剣が槍に勝つことはできないというのは古くから言われていることでもある。
“剣道三倍段”
これは剣で槍に対抗するためには三倍の段位が必要であるという教えなのだ。
話がそれた。
わしは短槍と小盾という装備でダンジョンをゆっくりと一人で進んでいる。一人なのは探索者の伝手なかった為だ。探索者協会に集団の斡旋を頼んでいる段階だ。
それなのに今ダンジョンにいる理由は集団を組前にダンジョンを体験しようとやってきたわけだ。
ダンジョンはどういうわけか枕ぐらいもある石をレンガの様に組み上げた構造をしている。
小盾を装備した手にランタンを持ち辺りを隈なく照らし確認する。
もし見つけにくい小さな通路があり魔物が隠れていた場合、後ろから攻撃されることになるからだ。
一歩一歩慎重に。
まぁ、そんな理由でわしは短槍と小盾のスタイルでダンジョンをゆっくりと探索してゆく。
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ダンジョンが危険な理由の一つに低階層でも致命的な罠が出現することがある。
大抵その様な罠は発見しやすくなっているのだが、他のことに気を取られていたり油断していたりすると決まってそんな罠に引っかかる。
その為、ダンジョン内では単独ではなく集団での活動が推奨されている。
残念ながら、わしには集団を組む伝手はない。会社の集団の空き待ちであるとも言える。
だが安心していい。例外的に一階は罠自体が仕掛けられた宝箱は今まで見つかったことがない。……はずだった。
なぜこの様な話を再びしたのか?
それはダンジョンの道の真ん中で見つけた宝箱を開けた瞬間、何かが作動する金属音が鳴ったからだ。
わしは恐る恐る下を見る。
ダンジョンの床に複雑な模様が発光して広がってゆく最中だった。それを見たわしの顔に冷や汗が落ちる。
その上わしの足は床に接着剤で貼り付けられたかの様に動かすことができない。
やがてわしを眩しいばかりの光が包む。
 




