装輪装甲車
装輪装甲車。
某水陸両用の車両を元に様々な武装を取り付けている。
その武装の一つが”魔導電磁式ブレイカー”。電撃魔法により強磁界を発生させリニアモーターの原理で特殊金属製の杭を射出する。所謂”パイルバンカー”だ。
他にもいろいろ考えていたが手元にある少ない材料で作成可能な武装の中で一番威力が高かったのだ。
「時井殿。これは一体何名乗車できるのですか?」
装輪装甲車を見ていた松雪さんが乗員数を尋ねてきた。乗員数は相手の拠点に乗り込むのに何人連れて行けるかが決まる為、聞いておくべき重要な数字なのだ。
「操縦者を併せて十名。前の操縦席に二名。後部乗員室に八名です。」
「約半分か……。リア?」
いつの間にかブリストルさんが装輪装甲車のドアを開き乗り込もうとしていた。
「駄目ですよ、オリー。私に留守番をさせて乗り込むつもりでしょう?暴走するあなたを止めるのに私は必要ですわ。」
「それはあなたも同じでしょう。時井殿!あなたからもなにか言ってください。」
「えー」
周囲にいた他の団員を見るとブリストルさんと松雪さんを微笑ましい様子で見ている気がする。どうやらこれはいつものことらしい。
しかし、判っていることがあるのでその注意はしておく。
「……ブリストルさん。残念ながらそこはあなたの席ではない……。」
「!そんな!トキイ殿!」
「……操縦席の隣は隊長の席だから団長である松雪さんの席です。ブリストルさんの場合、副団長なのだから松雪さんの後ろか操縦席の後ろになります。後は……。」
わしは装輪装甲車を指差しながら一通り説明すると彼女達の方へ向き直った。
「ふたりとも連れてゆくしか無いでしょう。それに相手の拠点を攻略するのに戦力の出し惜しみはいただけません。」
わしがそう言うと松雪さんは軽くため息を漏らした。
「仕方ありませんね。……私とリアの班から突撃組を選抜する。”みちる”と”トモ”の班は捕まえた連中の監視を頼む。残りの班は町への説明と支援だ。以上、かかれ!」
「「「「「はい!」」」」」
松雪さんの号令の元、第三騎士団の団員たちが素早く動きはじめた。わしは必要な武具を積める様に装輪装甲車の後部ドアを開けて準備をする。
相手の拠点を強襲する人員が選抜され後部ドアから乗り込む。
わしが運転席に乗り込みキーを回すとエンジンの音が鳴り響いた。
「トキイ殿、この車で不意討ちを?でもこの音では……。」
「そうですわね。流石にこれでは不意討ちは出来ないと思うのですが?」
ブリストルさんや松雪さんは音が大きすぎると言う。周りの団員たちも同様に頷いていた。たしかに彼女達の言う事はもっともな事だ。
「大丈夫。」
わしは一言告げで、アイテムボックスから先程収納した消音の魔道具を取り出した。
取り出すと同時にあれほど五月蝿かったエンジンの音が聞こえなくなる。周りを見ると驚きと同時に納得の表情をしていた。
(この魔道具を取り出すのは相手から気づかれそうな距離になるぐらい近づいてからでいいだろう。)
わしがアイテムボックスに魔道具を収納すると周囲に音が戻ってきた。
「これを使って相手の拠点に海側から潜入する。海と山との違いはあるが相手の不意を突けるのは同じことだ。」
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そこからの道のりは早かった。
信太山から十五分ぐらいで大和川を渡り住之江に到着する。住吉大社を右手に見ながら広い道路を北上、魔道列車の路線(環状線の様だ)に沿って左に進んだ。
そのまままっすぐ進むと奴らの拠点に通じる道に出てしまう為、その手前の弁天町で左折、そのまま海を目指した。
丁度右手に日本で一番低い山である天保山が見えたぐらいの位置で向かい岸に奴らの拠点が見えた。
奴らの拠点の周りは砂浜のままであり船が接舷できるようにはなっていない。
だがこの装輪装甲車の場合、砂浜は簡単に上陸出来る。
わしの操縦する装輪装甲車は音もなく静かに奴らの拠点に近づいて行った。
強襲の手はずは前もって決めている。
まず装輪装甲車を上陸させるとわしがダガーを使い閃光の魔法を使う。その後、パイルバンカーで拠点の壁もしくは柱を打ち抜く。
そして奴らが慌てた所で一挙に制圧する。
閃光の魔法が開始の合図になっている。わしはダガーを構えて合言葉を唱える。
「光あれ!閃光!」




