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おっさんは帰りたい! -冤罪でダンジョンを探索していたら異世界に出てしまった。人類初の異世界到達で特典?そんなことより早く家に帰りたい……。-  作者: 士口 十介
おっさん異世界に立つ

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白い繭

 赤脛巾団の拠点は桜島の岸壁近くに存在する。

 建物は打ちっぱなしの鉄筋コンクリート製で無骨な印象を受ける二階建ての建物だ。その二階に合田烈堂はふんぞり返る様に椅子に座り周りに手下を何人か立たせていた。どうやら護衛の代わりらしい。

 列堂は右手に酒の入ったグラスを持ちながら目の前にある白く巨大な繭を眺めていた。この白い繭、目を凝らしてよく見ると中に人のような影が数人分見える。


「あの第三騎士団の巴もこうなってしまえば大人しいものよ。後はうまく合言葉コマンドワードを聞き出せば……。」


「後は我々が取り囲んで好きにできると言う事ですね。」


 列堂の手下の一人がそう言い笑う顔には厭らしさが浮かんでいた。


「……好きにしろ。だが、団長と副団長の二人は別だぞ。あれは俺のモノだ。」


「へへへへへ、判ってますって。」


「しかし、こう上手く事が運ぶとはな。今まで慎重になって行動していなかったのが馬鹿みたいだ。」


「全くでさ。」


 烈堂は手下の相槌で機嫌を良くし、己が画策した計画を振り返っていた。


(豪斬アニキは動くなと言っていたが俺が動いたおかげで奴らの拠点を奪う計画が一歩進んだ。ギリギリ首の皮が繋がったぜ)


 ―――――――――――――――――――――


「烈堂よ。この度の不祥事、お主の責任は大きい。主様からの沙汰があるまで謹慎するがよい。」


 それは豪斬が列堂に対し冷ややかな表情で告げ言葉だ。

 豪斬が告げた”謹慎処分”、これは列堂にとって死刑宣告と同じものだ。何故なら豪斬の言う”謹慎せよ”は”自決せよ”と言う事と同じなのである。


「まずい、まずいぞ……。このままでは俺は殺されてしまう。ちょっと電車の中で倒されたぐらいなのに……。どうする!どうする!どうする!」


 列堂は謹慎用にあてがわれた部屋でウロウロしながら呟く。

 四畳半の部屋には簡素な机がありその机の上には小刀が乗っていた。もちろんこれは列堂が用意したものではない。

 列堂は時々その小刀に目をやっては首を振ると言った動作を繰り返し眠れぬ夜を過ごしていた。

 そんな列堂に転機が訪れたのは謹慎で部屋に籠もってから十日後のことだった。


「第三騎士団の巴が頻繁にダンジョンを訪れている?その中にはブリストルや松雪の姿が無い?」


「はい。以前は巴達だけでダンジョンに訪れるのは一月に一度か二度程度だったのですが最近は頻繁に……。」


 その報告を聞いた列堂の脳裏に閃くものがあった。


「これだ!ブリストルの件で使った香、“魔物寄せの香“はまだあったな?それを使え。そうだな……今回は巴達だけなら少し下の階から集めるだけで良いだろう。よし!わしも出るぞ。」


「はっ!」


 ―――――――――――――――――――――


(豪斬アニキは何を恐れているんだ?)


 烈堂が少し考え込んでいると手下の一人が少し不安げな表情で尋ねた。


「けど列堂さん。第三騎士団の……例のあの二人がここに来たらそんなことも言っていられなくなるんじゃ……?」


「あぁん?お前は何故ここに拠点を作ったと思ってるんだ?」


 列堂は手下が少し不安そうな表情になっていることに腹を立てていた。


「土地が安いとかじゃねえぞ。この区画へ入る為の道路は一つしかねし監視塔が置いている。そして港は整備中でまだ出来てない!」


「は、はぁ?整備中ですか?」


 よく判らないといった表情の手下に列堂は怒鳴りつけた。


「船をつけようにも桟橋が無いから接舷できない。それにここら辺りは砂浜のままだ。沖合に船を置いて小舟に近づくとなれば近づく前にばれて迎撃可能だ。それに小舟なら余り重い物は積み込めない。奴らの重い鎧は仇となる。つまりこの区画に入るには道路しかねえって事だ!」


 列堂の言う通り拠点への道は大型の車が通ることが出来るぐらい広いが所々に赤脛巾団が関所を設け通行する者を監視していた。そして、桜島は現在埋め立て中の為、海岸線はまだ工事中であり砂浜のままだった。


「流石は列堂さんだ!確かにそこだけ見張っていれば不意を打たれることは無い!」


「ここの二階から沖合を通る船を見張るだけで裏の対策委は万全。あとは正面から来るお客さんを待つのみってことだ。酒でも飲んで待ち伏せだ!どうせ朝まで来やしねぇ!ぐはははははははは!」


 列堂はそう叫ぶと宴会が始まった。彼らにすれば、相手がやってくるのは朝方ぐらいでその頃には酔いもさめているだろう。それに第三騎士団の拠点を襲った連中も帰ってきている。


 “全く問題は無い。”そう思っていた。


 その次の瞬間、窓から目も眩むような光が入ってきた。

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