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おっさんは帰りたい! -冤罪でダンジョンを探索していたら異世界に出てしまった。人類初の異世界到達で特典?そんなことより早く家に帰りたい……。-  作者: 士口 十介
おっさん異世界に立つ

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拠点炎上

 轟々と音を立てながら火を空高く噴き上げ拠点が燃えている。その火の勢いはすべてを焼き尽くさんとする様だ。

 拠点へつながる道沿いにあった商店の人たちは拠点が燃える様子を遠巻きに見ていた。皆不安げな様子で燃える建物をじっと見ている為かわしらが装輪装甲車で通り過ぎても驚いた様子はない。


「何てことだ!消防団はまだか!」


 ブリストルさんは消防団の姿を探しているようだ。

 この世界の消火活動は消防団の魔法によって行われる。消火方法はわしの世界と同じく、“燃料を断つ”“酸素を断つ”“温度を下げる”だ。この辺りはわしの世界と大きく変わらない。ただ方法が魔法による物という違いがあるだけだ。


「それらしい姿は見えませんね……。」


 ここまで燃えているのなら消火活動を行う消防団の一人か二人は来ていると思うのだがその人影はまったく見当たらない。


「正面からの突入は危険だ。建材に阻まれる可能性が高い。」


 装輪装甲車なら多少の火災には耐えることが出来る。しかし、突撃時に建物が崩れた場合はその限りではない。落ちてきた建材で動きが取れなくなりそのまま日に巻かれて一貫の終わりとなる。


「ブリストルさん。この様な非常時には騎士団はどこに移動することになっている?」


 火災だけでなく地震や台風も起こりえる。きちんとした組織なら不測の事態で建物に被害が出た場合の移動先が決められているはずである。


「拠点が使用できない場合は裏の訓練場へ集まることになっています。周りは開けていますし、大人数が避難できるくらい広いので……。」


「判った、裏に回る。」


 わしはハンドルを操作し装輪装甲車を裏の訓練場の入口の方へ移動させる。裏の訓練所は燃えている拠点からの炎の光で赤黒く照らされていた。


「誰かいるな?戦っている!」


 訓練場では黒い鎧を着た数人の者と騎士団の制服に身を包んだ何人かが戦っているようだ。

 だが、不思議なことに何度も武器と武器が打ち合っているように見えるが剣戟の音が一切聞えない。


(音が聞こえないし薄暗くて誰が誰だかよく見えないな……。そう言えばアレがあったな。)


 わしは思い出したかのようにこの間鑑定してもらったダガーを懐から取り出した。


(確かライトが使えたはずだ。)


 わしはダガーを構えて合言葉コマンドワードを唱えた。


「光あれ!ライト!」


 合言葉コマンドワードを唱えた瞬間、ダガーから光の塊が生まれ猛烈な勢いで戦いの中心まで飛び照らしあたり一面を真っ白な世界に変えた。


「「「!!!」」」」


 薄暗い環境に慣れた目には光の塊は致命傷だったようだ。黒い鎧の者たちはその場で転げまわっている。

 騎士団の制服を着た者達にも影響があったようでその場で瞼を押さえしゃがみ込んでいるようだ。


「こ、こんな大きな光が出るなんて!」


 味方に影響が出るのは不味い。わしは急いでライトの出力を小さくなるように念じる。

 その甲斐あってか真っ白な世界が普通の明るい世界に変わる。


「今の内です、黒い鎧を着た者達を捕縛しましょう。」


 目が見えない者達ではブリストルさんの相手にはならなかったようだ。

 一時間もしないうちに黒い鎧の連中は捕縛された。


 ブリストルさんは捕らえた者の一人に近づき懐を探すと一つの護符が出てきた。ブリストルさんはその護符を地面に叩きつけ壊そうと頭上に振り上げた。

 わしはとっさにブリストルさんの手から護符を取り上げアイテムボックスに収納する。


(空きがあってよかった……。)


「トキイ殿!その護符を壊さなくては音が……聞こえますね?」


 どうやらアイテムボックスは異空間にあるらしくこの世界には干渉できない様だ。ちゃんと鑑定すれば有用な設計図が手に入るかもしれない。

 わしが護符の利用方法について考えていると治療を受けた松雪さんが瞬きしながらやってきた。


「やれやれひどい目にあった。時井殿、もう少し加減してくれ、いきなりフラッシュは……時間も長いし、まだ消えていない。」


「……いや、あれは単なるライトなんだが……。」


 松雪さんは一瞬の沈黙の後、感嘆の声をあげた。


「流石は時井殿だ。武術だけでなく魔術も一流なのか。」


 薄々気がついていたのだが、この世界にたどり着いてからのわしは少しおかしい。妙に体が軽いし力も大きい。魔力も信じられないぐらいの大きさになっているようだ。

 これはこの世界の影響かと考えてみたが、元の世界から持ってきた槍を振る速度も鋭くなっているためこの世界の物質が軽いというわけではない。

 この世界の人間(巴さん)にわしの使っている槍を振らせてみたことがあるがいつも使っている槍よりも使いやすいと言われた。実際、槍技のキレが良くなっている様だった。

 やはりこれは”人類初の異世界到達での特典”の効果の一つだろうか?

 現状を考察していると下卑た声がわしの意識を引き戻す。


「くくくく、残念だったなぁ。せっかく俺たちから繭の在り処を聞き出せても俺たちが朝までに帰らなければあの繭は大阪湾に沈められることになっている。」


「けけけけけ、俺達はあの繭が何であるかなんて知らねえしな。中に人間が入っていても知らなければ邪魔なゴミとして処理できる。」


「何ですって!なんて卑劣な!」


 どうやら松雪さんは判っていた様で捕虜となった黒い鎧の者を尋問して繭の在り処、巴さんたちの行方を尋ねていたみたいだ。

 彼らが戻らなければ繭が大阪湾に沈められる。つまり、巴さんたち全員が殺されるという事だ。


「松雪さん。彼らの、いや、巴さんたちが掴まっている場所は何処ですか?」


「時井殿は助け出すおつもりか?だが無理だ。時間がない。巴たちが入った繭が置かれている場所は桜島の荷物集積場だ。そこにこいつ達の拠点がある。」


(桜島か……。確かわしの世界で有名なテーマパークがあった所だな。ここ(信太山)からそこ(桜島)までコイツラの足なら三時間と言ったところか……。)


 わしは松雪さんやブリストルさん、そしてその場にいる第三騎士団の団員に声をかける。


「何も問題ない。今からでも十分間に合う。」


 松雪さんは怪訝そうな顔でこちらを見た。


「時井殿、一体どうやって?」


 松雪さんの疑問にわしは黙って訓練場の入口を指差す。そこには光に照らされた装輪装甲車が鎮座していた。


「これで奴らの拠点を叩く。なに同じことをやり返してもバチは当たるまい。」

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