巴の捜索
そろそろ日が傾きかけてきた。
巴さん(ちゃん?)は二、三日おきにダンジョンへ行っているらしく魔石を取ってきてくれる。
そのおかげで外装部分は完成し、たった今取り付けが終わった。
少し離れた位置から全体を見てみる。どこからどう見ても立派な装輪装甲車だ。
(次は装備を作るだけだな……。)
わしが装輪装甲車の前で腕組みしながら武装の構想を練っていると第三騎士団の建物の方からブリストルさんが走ってくるのが見えた。
(おや?ブリストルさんだ……。慌ててこちらに来るみたいだが何かあったのだろうか?)
「ト……トキイ殿、こちらに巴達は来ていませんか?」
そう言えば日がそろそろ落ちる時刻なのに巴さんはまだ来ていない。いつもならもう少し早い時間に魔石を持ってやってきていたのだが……。
「いいえ。今朝あいさつを交わしただけでそれ以降は見ていません。まだ帰ってきていないのですか?」
わしはこちらに来ていないと言うとブリストルさんは少し焦ったような顔つきになった。
「いつもならもっと早く戻ってきているのですが、まだダンジョンから戻ってきていません。こちらの方へ先にきていればと思ってきてみたのですが……。」
「ダンジョンから?ではギルドの方へ連絡は?」
「ギルドに記録によると十五時ごろにダンジョンを出た記録は有るのです。ですがそれ以降の足取りが判らないとのことです。」
巴さんはダンジョンから帰らない状況ではない様だ。それを聞いてわしは少し安心した。
“ダンジョンに入ったまま帰ってこない。“それはわしの様に異世界に飛ばされている可能性もあると言う事だからだ。そうなると帰ってくるのはかなり難しくなる。
「ギルドの職員によると巴達はいつもギルドに挨拶をしてから帰るのだそうです。今日はいつもより遅い時刻になっても戻ってこなかったのでそのギルドの職員が心配になって記録を調べたところ、既にダンジョンを出ていた事が判ったそうです。」
妙な話である。巴さんはダンジョンから戻っては来ていない。装輪装甲車を楽しみにしていたから黙って何処かへ言ってしまうということは考えられない。
「……と言うことはダンジョンからの帰りになにかの事件に巻き込まれたのか?」
「このような状況だとその線が濃いと思います。私はギルドに向かい詳しいことを尋ねる予定です。織江にはここに残ってもらい万が一に巴が戻ってきたときの対応をしてもらう予定です。」
おそらくブリストルさんはダンジョン周辺での聞き込みをするつもりなのだろう。だが騎士団で聞き込みをした場合、すべての人が素直に話してくれるとは限らない。中には小銭を要求する者もいるだろう。
果たしてブリストルさんや騎士団の人たちはそんな連中から聞き込みが出来るだろうか?
世話になっている以上、ここはわしが一肌脱ぐべきだろう。
「ギルドに行くのならわしも行こう。聞き込みなら男手があった方が聞き込みしやすい場所もあるだろう。」
ブリストルさんは少し考えてわしに頭を下げた。
「トキイ殿、ありがとうございます。お手数をおかけします。」
巴さんの行方を捜すためにわしもギルドへ行く事になった。それとは別に一つ気がかりなことがあった。装輪装甲車の事だ。
わしが近くにいるのなら何とか対処できるが離れた場所に行くとなると装輪装甲車を触れないようにするべきなのだ。
わしはどうしようかと考え込んだ。
「トキイ殿、何か気がかりなことでも?」
「いや、作りかけの車の事なのだが、誰かが迂闊に触らないようにする為に持ってゆくべきなのだが、わしのアイテムボックスは三つの物しか入らないし、工作機械と本を二冊入れていっぱいでどうしようかと……。本は外に出しておくには失くした場合、目も当てられないし……。」
わしの話を聞いたブリストルさんは疑問符を浮かべ首を傾げた。
「本ですか?本棚に入れて運べば本棚一つで済むのでは?」
「そう簡単に行けばいいのだけどね。例えばこの道具箱……。」
わしはアイテムボックスからアイテムカタログを取り出し道具箱をアイテムボックスに収めようとする。
「道具箱は複数の違うアイテムが中に入っているから……収まった。」
わしが驚いている横でブリストルさんは大きく胸を張っていた。確かに彼女のおかげで持ち運びの問題は解決する。
わしはアイテムカタログとスキル大全の二冊を袋に入れアイテムボックスに収納、続いて装輪装甲車を収納した。これで準備は整った。
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二本橋に着いたわし達は二手に分かれて行動を開始した。
ブリストルさんはギルドへ行ってもらいわしが現場での聞き込みをすることになった。
まずは巴さんたちの目撃証言を集めよう。十五時頃に巴さんたちはダンジョンから出たらしい。そこから足取りを追っていけるはずだ。
しかし、十分後わしの計画は脆くも崩れ去る。十五時ごろ巴さんたちを見た証言が一つもないのだ。
朝方に見かけたという証言は取れた。それなのに十五時ごろに見かけたという証言は一つもなかった。
(どういうことだ……これは?)
逆に十五時ごろ何か変わった事や珍しい事は無かったか尋ねてみる。
「変わった事や珍しい事ですか?……そうですね、珍しいと言えば赤脛巾団の連中がダンジョンで大きなお宝を見つけたらしく数人がかりで運んでいたよ。あんな大きく白い物は初めて見たが何だったのだろう?」
「大きく白い?」
何だろう……何か思いつくがそれが何だったのか喉まで出かかっているのだが思い出せない。
「トキイ殿、私もギルドでいろいろ聞いてみたがやはり巴を見たものはいない。」
ギルドで聞き込みをしたらしいブリストルさんがやってきた。彼女の左手の手首を見た瞬間、先ほど思い出せなかったものが何であったのか瞬く間に理解できた。
「それだ!」
ブリストルさんの左腕にはわしが第三騎士団の人たちに配った物と同じ腕輪が輝いていた。




