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想定外

 わしは松雪さんの助言通りにしっかりとそして強く握り返す。

 最初はニヤニヤと余裕を見せていた合田だったが次第に顔色が目まぐるしく変化する。こめかみに血管を浮かせ真っ赤な顔をしていたと思えば真っ青な顔に変わる。


「く、く、く。何のこれしき……。」


「時井殿、握手と言うものは上下に手を振らなければなりませんよ。」


「あ、そうか。」


「は?!は、はな……。」


 合田が何か言いかけたるがそれに構わずわしは手を上下に動かす。その瞬間、鈍い音が握った手から鳴り響き、肩の辺りから何かが外れる音が聞こえた。


「はがぁうがぁ!」


 合田はたまらず珍妙な叫び声を上げる。その珍妙な声にわしは驚き、思わず握手した手を放してしまった。

 するとその反動か合田は近くにいた二、三人の仲間を巻き込み吹き飛んだ。


(あれ?)


 巻き込んだ合田も巻き込まれた合田の仲間もどいつも口から泡を吹いて倒れていた。


「あ、合田さん!」


「糞!こいつら調子に乗りやがって!!」


 “こいつら”と言っているが合田を吹き飛ばしたのはわしでブリストルさんや松雪さんは関係ない気がするが……。

 それにえらく弱くないか?わしはただ握手をしただけだぞ?


「無謀にも時井殿に力比べを挑むからその様に握手をしただけで醜態を晒すのです。」


「そうですわね。オリーの言う通りです。それにトキイ殿は槍の達人。その腕前は“オルクス・コマンダー”を一撃で葬り去るほどですわよ。そのおかげで私は無事だったのです。」


 と言ってブリストルさんはなぜかわしの左腕にしなだれかかる。


「リアの言う通りだ。それに時井殿は私の握手にも平然としていたほどの人物だぞ。スキル持ちの私の握手に。」


 どういう訳か松雪さんもわしの右腕にしなだれかかった。わしは丁度、美人二人を侍らせているような格好になっている。

 いったい何の罰ゲームなのだ?


「第三の隊長の握手にも平然としていただと?馬鹿な!」


「で、でもそれが本当だとするとヤバいんじゃ……。」


「それに合田さんは気絶したままだ。どうするんだ?」


 一人の男がわし達と合田の顔を交互に見て悔しそうに言葉をつぶやく。


「て、撤退だ!」


 丁度その時、時間にして十分もかからない内に魔道列車は次の停車駅である“三国丘”に到着した。


「我々は合田さんを病院に連れて行かねばならない。ここで失礼する。」


 そう言うと合田の仲間たちは合田や巻き込まれた数人を担ぎ魔道電車を降りて行った。彼らが魔導列車を降り列車の扉が閉まるとブリストルさんと松雪さんは安堵の息を吐いた。


「ふー。やれやれです。毎回毎回出会うと絡んできていい加減うんざりしていたところです。」


「そうですね。ダンジョンでは魔物の集団に突っ込んで殲滅したとか宝箱を開けて罠が発動したがあまり被害はなかったとかそんな話ばかりで……。」


 彼女らの話の中身を聞いて困った連中というのは判る。魔物の集団、所謂モンスターハウスに突っ込んだり、罠に引っかかっていたりするのはパーティとしてはいい迷惑である。

 その様な行為を自慢するのはどういう神経をしているのか疑う連中だということだ。だからわしの握手で泡を吹いて気絶するぐらい弱かったのだ。

 ブリストルさんや松雪さんは連中に近づかないのが一番なのだが移動先が同じなので列車で出会うことが多いのだろう。


 でもあんなに弱ければ大して脅威にならない。この時のわしはそう考えていた。


 ---------


 右手に包帯を巻き三角巾で腕をぶら下げた男、合田烈堂は小柄な男の前で膝を付き、頭を垂れていた。小柄な男は手に少し長い扇子を持ち時々その扇子で自分の肩を叩いている。その後ろにはその男の部下らしい者たちが直立不動で立っていた。


「列堂、何というざまだ!それでも赤脛巾団の一員か!」


「で、でも豪斬アニキ!あのヒョロっとした奴があんな力があるなんて……。」


 [愚か者が!」


 烈堂の言い訳を聞いていた豪斬は手に持った扇子で烈道の顔を叩いた。豪斬の扇子で叩かれた烈堂はもんどり打って倒れた。ごく普通の竹や木で出来た扇子にこの様な事が出来るはずがない。豪斬の持つ扇子は鉄扇、全てを鉄で作った物である。

 豪斬に不意飛ばされたが列堂はヨロヨロとだが直ぐ立ち上がった。倒れたままだと更に折檻を受ける事を烈堂は理解していたからだ。


「その男、時井だったか……聞いたことがないが、おそらく偽名だろう。だがこの時期に雇い入れるとは……。我らの計画に感づいたのか?」


 豪斬は直立不動で立つ部下の一人を意味ありげに見る。


「現場に我らが誘導したという証拠は残しておりません。」


「ならば偶然か……。だが、うまくいかないものだな。オルクス共も第三の連中を一人も屠れないとは想定外だ。せめて副団長のあの女でも始末できればよかったのだが……。」


「あ、兄貴。そのことなんだが……。たしか第三のあの女が言っていた。時井と言う奴は“オルクス・コマンダー”を一撃で葬り去りあの女を助けたらしい。」


「何?ブリストルを?だとしたらその時井と言う男、要注意だな。どんな細かい事でもよい。時井と言う男を調べよ!」


 豪斬の部下は命令を聞くや否や部屋から飛び出していった。


「……槍に名手か……。宝蔵院か戸田か竹内か?いずれの流派が後ろにいるか……。」

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