異世界来訪特典1ST
「おはようございます!トキイ殿!」
玄関からブリストルさんの声が建物中に響いた。
どうやらわしは一睡もせずに様々な書籍を読み漁っていたようだ。しかしその結果、いろいろなことが判ってきた。
わしは単純に科学技術が魔道技術に置き換わっただけと考えていた。だが、そうではない。
科学技術が形になるまでに様々な試行錯誤がある。それは魔道技術とは別の物で科学技術特有の物である。
例えばこの世界、蒸気機関が出来なかったことで“ボイル・シャルルの法則”がない。当然、“ボイル・シャルルの法則”が関係する発見や法則もない。
外見は似ているが魔道技術によって似ている別の世界、それがわしの今いる世界だ。
「はい。今行きます。」
わしは大声で返事をすると図書室から廊下へ出る。図書室は拠点の二階にあり玄関から少し遠い位置だ。いそいで近くの階段を降りると玄関へ急ぐ。
「トキイ殿。朝食をお持ちしました。食堂で食べていただいてもよろしかったのですが、強く反対する者もいまして……。」
まぁ、おっさんと朝食を取りたいと思う女子高生はいないだろう。
「いえ。無理に泊めていただいている手前、そこまでしていただく訳には……それに今まで女性だけだったのだから急にこんなおっさんが混じっても混乱するだけでしょう。」
実際この建物に朝食を持ってきて……いや、朝食があるだけでもありがたい話である。わしはブリストルさんに丁寧に感謝しつつ朝食を受け取った。
しかしブリストルさんはまだ何か用があるらしく少しもじもじしながらこちらを見ている。
「ト、トキイ殿の今日の予定は?」
「そうですね。午前中は少し考えて整理したいことがあるのでそれを……午後は特に予定は立てていませんね。」
「そ、それなら午後からギルドに行くのはどうだ?私も用事があるし、トキイ殿もほら、魔石やドロップ品の査定が……。」
そう言えばそうだった。ギルドにダンジョンで拾った魔石やドロップ品の鑑定を依頼したままだった。買い取り価格が高ければそのまま売ろうと考えていた物だ。
わしは午後からブリストルさんと一緒にギルドへ向かう約束をする。
実際には地理が似ているとはいえ微妙に違うようなのでわしがちゃんとギルドに到着するか怪しかったのは秘密だ。
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午後からブリストルさんと約束したので、午前中に懸案事項をやっておこう。まず自分のスキルの確認だ。
通常ギルドカードは他人に見せる時の設定で基本的にスキルは表示されない。逆に名前や性別、年齢、出身地は必ず表示されるようになっている。
わしがギルドカードを操作してスキルを表示させる。
・探索者名:時井山之助兵衛
・出身地 :地球、日本国
・人種 :日本人
・ダンジョン走破階層
地球、日本橋:B1、B50
地球、二本橋:B1、B50
・スキル
アイテムボックスEX(1)
アイテムボックス?そう言えば”異世界来訪特典”と頭の中に声が響いていたな。ダンジョン内ではスキルを習得した時など聞こえる時があると聞いていたが、声がやけに響いたのとダンジョンの出入口付近でも聞こえるとは思わなかったので少し動揺した事を思い出した。
どうやら特典として“アイテムボックスEX“と言う新たなスキルがわしに付与されているようだ。
アイテムボックスというスキルの使い方もなんとなく解る。わしの感覚からするとアイテムボックスは全部で三つあり、そのうち二つに何か入っている。
中身を取り出すのは空中から物を出し入れするイメージだ。
空中に手を突っ込むようにしてアイテムボックスから物を取り出す。アイテムボックスに入っていたのは本が二冊、それぞれのボックスに一冊ずつ入っていた。
まとめて入れれば良いのにと思い、二冊まとめて一つのボックスに入れようとしても入らなかった。
どうやらわしのアイテムボックスはボックス一つにつき一つの物しか入らない様だ。
わしのアイテムボックスに入っていた二冊の本は“スキル大全”と“特典アイテムカタログ”の二つだった。
“スキル大全”はその名の通り全てのスキルを解説付きで記載した本だった。
“特典アイテムカタログ”は特典アイテムとその能力、構成されている材料、簡易設計図が載った本だ。
それぞれの本の最後のページには申込用紙が付いていてその用紙に欲しいスキルや特典アイテムを書くようになっているようだった。スキル大全の申込用紙は二枚、特典アイテムカタログの申込用紙は三枚ついている。
この内、スキル大全の申込用紙が二枚なのはアイテムボックスを入手した時自動的に使われたのだろう。
さて、午前中にスキルで有用なスキルと有用な特典アイテムを調べなくてはならない。




