一方その頃:破滅の足音
時井が別世界で帰り方がわからないことに気づいた丁度その頃、時井が所属する会社”あけぼのダンジョン開発”では宝箱紛失に続く問題が判明していた。
先程、海事に宝箱の紛失を報告した部下が血相を変えて声を上げた。
「海事課長!大変です。」
「なんだ?湖川。叫ぶほどのことか?」
湖川と言われた海事の部下は壊れたロボットのようにゆっくりと顔をこちらに向けた。
「今、保管室の入出記録を調べていたのですが時井課長の入出は一昨日の午後四時になっています。ですが時井課長はその時間探索者免許の交付を受けています。これは探索者協会に確認済みです。」
「免許を交付する探索者協会はこの近くにはなかったな。最寄りの探索者協会までの時間は?」
「自動車で十五分。これは道が混んでいない時ですね。四時前後の時間は混んでいない状況はありえません。」
海事は湖川の報告を聞き腕を組み椅子の上で唸った。
「むむむむむ……。と言うことは別の誰かが時井課長のカードを使って侵入したということか?」
「そうです。それと保管庫に備え付けている監視カメラの映像を共有のフォルダーに入れておきましたので見てください。」
海事は湖川に言われた通り自分のパソコン内にある共有フォルダー内にある映像を開く。
「これは!……覆面男?」
映像は少し上背のある覆面をした男が保安室内から問題の宝箱を運び出す映像が映っていた。画面の左上には撮影時の時間、”PM4:08”の文字が映っている。
「訓練用の宝箱が頻発して無くなったので保管庫に監視カメラを付けたがこれでは判らないな。」
「ただ保管庫に監視カメラを付けた事を知っているものは少ないはずです。」
「と言っても”あけぼのダンジョン開発”の従業員はそれほど多く無い。全員が知っていると考えるべきだろう。」
「いっその事、警察に届けてみては?」
「それは出来ない。」
ダンジョンの宝箱などを地上に置いておく場合は政府機関の許可が必要になる。許可をもらっていても保安室に泥棒が入った場合は管理不行届でその許可が取り消される可能性が高い。
そうなるとあけぼのダンジョン開発はダンジョン内の宝箱やアイテムを研究できない事態に陥り会社の死活問題につながるのだ。
「何か他に手がかりがあれば良いのだが……。」
「宝箱の紛失当日、会社には誰もいない事になっているのであまり期待できませんね。」
「……そう言えば時井課長は今日もダンジョンか?」
「いえ。会社では連続してダンジョンへ行くことを禁じていますので今日は出勤のはずです。呼び出しましょうか?」
「いやこちらから出向いたほうが良い。時井課長には説明して協力を要請しよう。」
海事はそう言うと探索課へ向かった。
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始業時間ギリギリの時間に瑠玖院は会社に駆け込んだ。間髪をいれずタイムカードに刻印する。
「時間は……AM8:59!セーフ!やはり俺は天才だな。」
そんな時間のタイムカードは社会人として問題があるのだが、そう考えないのが瑠玖院という男である。
大欠伸をしながら人のいない会社の通路を歩く。他の社員は既に出勤し席に着いているか外回りに出かけている時刻なのだが気にする様子はない。
(やれやれ、昨日は撮った映像の確認に時間がかかったな。おかげで徹夜だよ。)
この男が見る映像が普通の影像であるという事はありえない。当然良からぬ映像なのだ。
(ま、盗撮はあの”スケベイジジイ”になすり付けたし、後はあのジジイをいつもの様にこの会社から追い出せば無事終了だ。これも優秀な僕に盾突くヤツには当然の報いだ。)
瑠玖員が会社の通路を進むと自販機の前で探索課の連中が何やら話し込んで着るのが見えた。ふと立ち止まって集まっている探索課の連中を見る。
(……探索課は今日ダンジョンに行かないのか……まぁ、すぐに行くことになると思うけどね。……そうだな。)
瑠玖院の脳裏に何か良からぬことが閃いた様だ。
(あのジジイは今頃ダンジョンで麻痺しながらガタガタ震えているに違いない。麻痺状態で助け出されれば自分の無力さを知るだろう。そうなれば探索課……いやこの会社自体を辞めざるを得ないだろう。なんてすばらしいアイデアなんだ!やはり俺は天才だな。)
瑠玖院は探索課の連中にゆっくりと近づいていった。
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探索課は海事たち検査課と異なり非常勤を含めると最も構成人数の多い課だ。建物は海事達がいる棟とは別の棟にあり大人数が宿泊できる施設や大浴場もある。
海事には探索課を訪れた時、中が何か騒がしいように思えた。手っ取り早く入口近くの受付嬢を捕まえると尋ねてみる事にした。
「何かあったのか?少し騒がしいが……。」
「これは海事さん。お疲れさまです。少し問題がありまして……探索者の一人が昨日から帰っていないのですよ。」
海事は少し首をかしげる。ダンジョンでの探索は深い層なら二、三日は時間がかかることがある。一日ぐらいで騒ぐほどのことはないはずなのだ。
「それが何か問題が?」
「ベテランならその様な事もあるのですが昨日から帰っていないのは新人というべき人でして……。」
海事は新人と聞いて納得する。確かに新人が昨日から帰ってないのなら事故を想定するべきだ。
「新人か、それは大変だな。……それはそうと、時井課長を呼んでくれないか?頼みたいことがあるのだ。」
「え?」
時井課長の名前を出した途端、受付嬢は硬直したように動きを止めた。
「どうした?いないのか?」
「先程昨日から帰っていない人は時井課長なのですよ。訓練のためにダンジョンへ行って帰ってこないのだとか」
「訓練?」
「何でもダンジョンへ行く時に宝箱を持っていたらしいのですよ。」




