団長からの依頼と言う名のお願い?
わしは右手で穂先を持っていた槍を持ち直し門扉に立てかけ左手で持っていた槍は左肩に背負い直す。
巴さんとやらはわしがやりを門扉に立てかけるや否や両手でがっちりと抱きかかえる様に確保した。
そして少し悔しそうな顔でわしを睨んでいる。
「巴さん、その様な目で見られましても決定は覆りませんわよ。それに時井殿にはここにいる間は槍の指導をお願いしようかと考えています。場合によってはあなたの教官になるとも言える人ですよ。」
「団長!そんな話は聞いていません!」
わしもそんな話は聞いていない。第一わしは人に教えることが出来るほど槍の技能があるわけではない。
「当然です。ここに来る直前に思いついたことですから……。」
ああ、思いつきか。それならわしが知らないのは当然のことだ。ブリストルさんを見るとこちらを見て苦笑いをしている。松雪さんが思いつきで何かをするのはよくあることなのだろうか?
門扉の前で少し騒ぎすぎたためだろうか、次から次へ重装備の女性が集まってきた。
見たところ十七か十八ぐらいのお嬢さん方だ。
「副団長良くご無事で……。」
「我々一同、駆けつける用意をしていたところでした。でも無事で何よりです。」
彼女たちはブリストルさんの姿を見ると口々に無事を喜んでいる。どうやら囮になったブリストルさんを救出するために集まった人たちのようだ。
でも、どの人物もわしを怪訝な表情で見ているのは勘弁してほしい。そんなわしの居たたまれない表情に気がついたのかブリストルさんが説明を始めた。
「みなさんと別れてオルクスを引きつけた後、わたしは窮地に陥りました。もはやだめかと思ったその時に助けていただいたのがトキイ殿なのです。」
「このおっさ……お人が?」
「うーん。あんまり強そうには……。」
「装備から見て駆け出しの探検者?」
「「「うんうん。」」」
散々な言われようであるが、駆け出し(免許を取ったばかり)なのは間違いない。
間違いなのはこんな場所(乙女の園)にいることなのだ。
「トキイ殿はオルクス・コマンダーを一突きで倒すほどの技量がある人ですよ。」
「「「「「「え!」」」」」」
ブリストルさんの言葉に息をのむ一同。
「そして槍の連続技でオルクス二体を瞬殺しました。」
「……副団長が言うのだから間違いはないと思うけど……。」
「ねぇ?」
ブリストルさんや松雪さんの周りを囲む女性たちが好き勝手に言い合い騒ぎ出した。それぞれが思い思いのことを喋っているようだ。
「はい!はい!解散!解散!あなた達、私達は時井殿を案内するので演習場に戻っているように。非常事態でなければこの時間、あなた達は訓練の時間でしょう?」
周りに集まった女性陣は松雪さんのそう言われ名残惜しい様に振り向きながら演習場とやらに移動して行った。
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わしが案内された部屋はどうやら団長室らしい。部屋の隅に騎士団長の鎧一式と武器や盾が置かれていた。どうやら今着ている鎧の予備の様だ。
騎士団団長の部屋らしくがっちりとした大きな木製のデスクと少し硬めのソファ、樫の木でできたテーブルが置かれ、壁には賞状や勲章、記念盾を飾る本棚があった。
飾られている武術の記念盾を見ると第三騎士団が様々な武術に精通していることが判る。
「時井殿はわが第三騎士団についてどう見えました?」
「どうと言われましても……。」
松雪さんの質問にたいしてわしは明確に答えることが出来なかった。わしの様なおっさんにじろじろ見られるのは問題があるだろうということであまり見てはいなかったのだ。
「そうですね。例えば巴はどうでしたか?あなたに槍を向けた者なのですが……?」
「そうですね……。」
実際に威嚇された印象として脅威とは感じられなかった。わしよりも膂力もあまりなかったし速度も目にも止まらないという速さではなかった。
そのことを正直に松雪さんに話す。
「そ、そう。巴でもそのぐらいになるのか……。だったら……。」
しばらく考えていた松雪さんはわしに嘆願し始めた。
「時井殿、この第三騎士団にいる間だけでいいので団員に稽古をつけてやってくれないだろうか?」
先ほどもチラリと聞いた内容だ。様は女子高の先生になってくれないかと言うのと近いものがある。
よってわしの答えは決まっている。
「すみません。勘弁してください。」
おっさんに女子高生の中に混じるのはきついものがあるのだ。




