似て非なる事柄
ここはわしのいた世界とは違う。それは判った。
しかし、あまり変わらないような気がする。徳川ではなく豊臣が天下泰平を築きあげたのならもう少し変化があってもおかしくはない。
ここは異世界ではなく異世界もしくは裏世界ということだろうか……まて?
徳川が天下を統一していないのなら、日本の首都はどこになるのだ?
そんなことを考えていると少し不安そうな顔をしているブリストルさんから声がかかる。何か気にかかることでもあるのだろうか?
「トキイ殿。トキイ殿はこれからギルドに寄るのでしょうか?もし行かれるのであれば私がご一緒してもよろしいか?」
ご一緒しても良いか悪いかと言えば勿論良い。それにこの世界の情報を得るならギルドが一番だろう。だが残念な事にわしはギルドの場所が判らない。
いや、おそらく前の世界で探索者協会の事務所があったところにブリストルさんの言うギルドがあるのだろう。
「もちろん、と言うよりわしはギルドの場所がわからないので案内してほしいのですが?」
「え?……あ、そうか!トキイ殿は久しぶりのダンジョン探索なのだな。だとしたらキルドはこの間新しく建て替えたばかりだから場所がわからないのか……。仕方がない、私が案内しよう。」
うまい具合に誤解してくれた。
ブリストルさんは屈託のない笑顔になり率先して歩き出した。わしの世界の古い建物のままのギルドとは違って最近新しく建て替えたようだ。
わしが探索者協会のビルだと思った場所を通り過ぎ更に進むと真新しい建物が見えてきた。中層五階建ての事務所のようだ。
「あれが新しくなったギルドのビルだ。元々のダンジョン近くのビルは老朽化が激しくてこの場所に建て替えられた。元のビルを取り壊して更地にした後、その場所に移動する予定だ。」
曳家工法と言われるやつだな。わしが探索者協会のビルと思った建物までの間は更地になっていて障害になる物も高低差もない。最初から曳家を考えているのなら問題はないだろう。
「流石に魔法でビルを運ぶのは五階建てが限度だから建物の高さが低いのは仕方がない。その分、ビルの建築面積が大きいから同じ事だ。」
「魔法?」
「トキイ殿は知らないのか?牽引魔法を使う建物の移動方法の事ですよ。これは魔法が使われるようになった当時からあります。魔法が使われるようになったのが四百年ぐらい前だから伝統的手法と言えるのかもしれません。」
違った。
わしのいた世界とあまり変わりないと思っていたが違っていた。わしの世界では魔法が使われたようになったのは五年ほど前、この差はどの様な差になるのだろうか?
建物を見る限りあまり違いはないように見える。まぁ、構造物の歴史は紀元前からあると考えるとさほど違いは出ないのかもしれない。
わしがいた世界は魔法が使われる様になっても今まで通りの物理法則は健在だった。
問題は魔法が使えるようになって四百年ということだ。
その間に発見されたり考えられたりした事が無いかもしれない。
「でも魔法が無かったらどうなっていたのかしら?わがブリテン王国も名前が違っているかもしれませんね。それに日本だってダンジョンがなければ秀吉はもっと早くに亡くなっていたという話もあります。」
秀吉と言えば豊臣秀吉だよな。ダンジョンと秀吉にどんな関係があるのだろうか?
「トキイ殿は日本人なのに昔の日本の歴史に詳しくありませんね。私は日本の歴史が専攻でしたから知っていますが、同じ日本人が知らないのはちょっと……。」
疑問符を浮かべるわしにブリストルさんは少しため息をついた。
「日本でダンジョンが出現したのは1595年の三月、それから三年二か月後の1598年五月に秀吉が病気で倒れます。でもその時にはダンジョンの攻略が進んでいて秀吉のもとに霊薬が届けられたのです。」
「霊薬?」
「ええ。ダンジョンの三十階以降、極稀に見つけられる回復薬です。効果は寿命の延長。」
そんな凄いものがダンジョンで見つけられるのは驚きだ。見つけた分だけ寿命を延ばすことが出来るならダンジョンを探索する者の寿命は有って無い事になる。
「大丈夫ですよ。霊薬は一度しか効果がありませんから。でもそのおかげで秀吉の寿命は十年延びたといわれています。死亡したのがそれから十年後ですから。」
十年と言うのはかなり長い年月である。豊臣秀吉でよく言われることは“あと十年あれば豊臣政権も盤石に……。“だ。
実際この世界は秀吉があと十年存続する事が出来た世界の様だ。
 




