第6話
「フヘッ……フヘヘヘヘヘヘッ!」
憧れのシチュエーションを妄想し、思わず顔が汚く歪んでにやけてしまう。
そしてウットリとやがて訪れる未来に笑みを漏らしている中、服から露出している背中へと天井から水滴がポタリと滴ってきたようで、その不意の刺激が私を正気に戻したのだった。
「――ヒヒャッ!」
驚きと冷たさに、反射で変な声が出てしまった。
「んっもう……冷たいわねぇ。」
私は少々イラつきながらも左手を後ろにまわし、背中を擦って濡れた場所を確認した。
「まぁ、一滴当たっただけだからそんなに濡れてはいないけど……これから暫くはここで暮らすんだから、気を付けなくっちゃね~。」
着替えが要るほど濡れたわけではないしと、取りあえず部屋の端に置かれた貧相な木製ベッドの上へと腰かけた。
「――カッタァ!」
流石に牢屋に置かれているベッドなだけあって快適に寝れるという代物ではないし、おまけにどう見ても私が寝るには小さい。
「ハ~ァ……。このベッド――硬いと思ったら、木が剥き出しで所々ささくれ立ってるし、その上に藁でできたムシロが一枚だけ。しかも布団はなくて、寝る時に体の上に掛ける物は薄っぺらい毛布が一枚のみ。私、今夜は寝られるかしら………。」
どう考えても風邪を引きそうだし、第一こんなベッドと呼ぶには色々と足らない所では眠れる気が全くしないわ。
そうこうしているといい具合に時間が経ち、先程の『牛鬼』と名乗っていた魔物とは別の誰かが近づいてきた。
「姫~。夕飯よ~。」
敵である筈なのに何とも柔らかく優しい声が私を呼ぶ声が聞こえてきた。
―――んっ!?
「あんら~。縮こまって震えているかと思って見に来てみれば……案外平気そうなのね~ぇ。」
私に話しかける声の主は銀髪を一つに束ねてポニーテールにし、お盆の上に置かれたランプにある炎の灯りが映る度に、キラキラと輝きが揺れる赤い目をした長身で細身の男(?)だった、
「美味しそう―――あっ! いえ……カワイソウな姫。」
―――んん?
今、なにか不穏な言葉が聞こえた気がする……。
男(?)だと思ったが、口調や仕草が女の人のようだし………あからさまな敵対心も見せないし何だか正体が掴めない人だ。
「アタシはね~、ヴァンパイアのアルジャン。アタシは陽が落ちると目覚めて、いつも夜の城の中をウロウロしているの。でも夜は起きている者も少なくて……ここにまた暇潰しに来るだろうから、よろしくねん。」
このアルジャンと名乗る男(?)は、そう言ってウインクしてきた。
「あっ―――!」
その瞬間、体中の血が一気に燃え上がるのを感じた。
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