第5話
「さて、と……。」
背後で『ピチョン……ピチョン……』と水滴がしたたる音がする。
音の発生源を探して見るとどうやらこの地下牢、天井に開いた隙間から雨漏りを起こしているらしい。
「雨漏りとかちょっと不快ではあるけど……冷たい石の床に鉄格子。なかなか悲壮感が漂っていていいじゃない。まさに囚われの姫って感じで雰囲気のある舞台だし………楽しみね!」
私は少し―――いや、かなりワクワクしていた。
まぁ、ちょっーとばかし魔王の態度は気にくわないが、これで準備は整ったと言える。
「あとは魔王城に閉じ込められている私を勇者様が助けに来て恋に落ちるだけね。フフッ……フフフフフフフフッ………。」
この時の私は、この後に自分の望む未来が必ず待ち構えていると信じて疑わず、思わず歌いだしてしまいそうになる程に楽しくて仕方がなかった。
「――とは言っても、さすがにすぐのすぐには来ないわよね~。あの魔王もしばらく私には用がないって言っていたし―――。」
これからどう過ごそうかなと暫し私は悩んだ。
「暇だわ~……。こんな何もない場所で、何をして暇を潰そうかしら。」
ここが牢屋であるにもかかわらず、近くに見張りらしい見張りも見当たらないので何かしらを頼むこともできやしない。
とはいえ、何かを頼んだとしてもその願いを叶えてもらえるとも限らないのだけど………。
この魔王城である程度は自由の利く誰かに会えたならば、面白そうな本とか何か暇潰しができそうな遊び道具とかを持ってきてもらおうと思ったのに。
「まっ、どうせ日に二回ぐらいは私にご飯を運びに誰かが来るだろうし、その時に頼んでみようかしら? それまで演技の練習でもして待っていようかなぁ。第一印象が肝心だって言うし、勇者様と出会った時に一目惚れしてもらえるように優雅でありたいものね~ぇ。そ・れ・に! やっぱり囚われの姫はか弱くないとね! うんっ!」
―――魔王もその眷属も、全然怖くもなんともないけどさ。
私は自らに気合を入れるように胸の前でギュッと拳を握り締め、ニコッと笑った。
「フフフッ! きっと私を助けに来た勇者様は絵本に出てきたあの勇者様のように、誰よりもカッコ良く私を魔王城から救いだしてくださるわ。そしてこう言うのよ。」
私は立ち上がって左手を胸に添え、右手をスッと手の平を上に向けた状態で斜め前上に差し出した。
「『あぁ、美しき姫よ。この忌まわしき魔王城からお救いし、晴れて自由の身となりました。ですがお許しください。私はまた再びあなたを閉じ込めたいのです。今度は私の愛という鳥籠に―――。』」
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