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第1話

 幼い頃、ママがよく私を寝かしつけるのに読み聞かせてくれた絵本がある。

 それは悪い魔王に攫われてしまった可愛いお姫様が主人公で、牢獄へと閉じ込められていたお姫様を助けに魔王城へと乗り込んできた勇猛果敢な勇者と恋に落ち、最後には結ばれて国中の人から祝福されるという話だった。

 私はそのお話が大好きでママに何度も何度もせがんで読んでもらったのを覚えている。


「あぁ……。私も絵本にあった様なあんな方と結ばれたいものですわねぇ―――。」


 ホゥ――と窓から晴れ渡った空を仰ぎ見ながら熱のこもった溜め息を吐き、恋焦がれている憧れの勇者様への思いを胸に抱き、もうすぐ出会うであろう未来の恋人に思いを馳せていた。


 私ももうすぐ16歳―――。


 誕生日が来れば成人の祝いを済ませ、一年も経たずしてすぐに王族に生まれた務めとして他国へと嫁ぎ、まだあったことも無い相手と結婚しなければならない身……。

 いわゆる政略結婚というやつだ。


「分かってはいるけど………いるけども、下女たちが羨ましいわ~。あの子たちはきっと自分の好きな相手と結婚できるんでしょうからねぇ……。」


 私は窓の下を歩く数人の下女に目をやり、自由の無い自らの身の上を悲観した。

 結婚したら今以上に自由も無くなり、毎夜毎夜好きでもない相手と閨を共にし、最大の使命である子供を産み育てなければならないのだから暗くならない理由はない。


「恋のひとつもしてみたかったな……。」


 今度は哀しみのこもった溜め息がハァ~と漏れ出た。

 この国――セラータ公国は周辺にある他国と比べると格段に小さく、領土を守る為にと昔からこの国では王族に生まれた女性は皆、誰もが周辺国へと嫁いできた。


 これを体の良い人質―――そう取る者も多い。

 だが四方をガッチリと五つの国に囲まれたこのセラータ公国を守っていくには他に方法はなく、特に大きな産業もないので国際的な力も弱いが故に、生存戦略として涙を呑んで長いこと受け止められてきたのだった。


「まぁ、ひょっとしたら私の結婚相手がカッコイイ人かもしれないし、私が恋に堕ちれる相手かもしれないけど………。それを願うしかないわね――。」


 やがて訪れる未来にもしかしたらと願い、そろそろ夕飯の時間がくるわねと私は椅子から立ち上がって窓に背を向けた。

 ―――と、その時だった!


「ガーハッハッハッハッハッ! お前が噂のあの姫だな。」


「えっ!?」


 振り返るとそこには大きく開け放たれた窓に、真っ黒な山羊に似た角を頭の左右のコメカミ辺りに生やした長身の男が黒く大きなマントをバサリと広げて浮いていた。

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