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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
斯くして、人はどうしたか
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性格が悪い男

武力バカで通じる

ジルトが学園に登校すれば、まず最初にファニタが抱きついてこようとして(おそらく)、一歩前で止まった。


「お、おい?」

「……」

「おーい、ファニタちゃーん?」

「……無断欠席」


しばらく無言だったファニタはぽつりと呟き、半目でジルトを見た。少し息を吸って、ジルトの手を取る。


「おかえりっ、ジルト!」

「ああ、ただいま、その」

「訳は後でたっぷり聞くわ。今はこれだけ……貴方が無事に帰ってきてくれて、よかった」

「……」


今度はジルトが黙る番だった。なにせ、微笑むファニタは。


ーーこいつ、こんなに可愛かったっけ。


なんだか無駄にキラキラして見える。動悸がするし、顔が熱い。


「あ、あー、ありがとな! そんじゃ!!」


ファニタの手を振り解き、急いで自分の席に走って行く。ジルトはわけのわからない動悸を抑えようと机に突っ伏した。


その肩を、トントンと叩く指。


「ようバルフィン。お疲れ」

「なんか知らんけどな」

「そろそろ、認めたほうがいいぞ」


いつもの三人組である。何を認めたらいいんだ。


「何を認めるんだよ……」


思わずそう声に出せば、たぶん三人目の発言者が言う。


「誰が教えるかボケ、自分で気付け」

「ええ……」


いつのまにか頬の熱はどこかに行っていた。




ジルトが理不尽な返答を受けた、その頃。


ファニタは先程の元気そうな表情から、泣きそうな表情になっていた。


「レネぇええ、私、私、今、握ってた手を勢いよく離されたんだけど、なんで?」


ファニタに縋られたレネは、よしよしとファニタの頭を撫でる。


「ファニタはよく頑張りましたわ。あの態度だと、結構目がありますわよ」

「本当!?」

「ええ、あともう一押しですわ」


いえ、一押しは言い過ぎましたね。とレネは考えるが、ファニタの嬉しそうな顔の前に撤回する気は起きず。


「あとでバルフィン様にお話を聞いて来なさいな。もう少し、近づくことができましてよ」

「うん! そうするわ! 待ってなさいジルト!!」


ーー立ち直りが早いのは、この子の良いところですわね。


レネはそう思いながら、微笑んだ。


ジルトが帰ってきてよかった。本当に、彼が祝福してくれたみたいだ。


ーーありがとうございます。宰相様。


昨日の舞踏会で出会った優しい青年にも、祝福がありますように。


レネは、そう願っていた……。






その宰相は、一個の靴を見ながらため息。磨かれた木製の机の上に乗せては、矯めつ眇めつしている。


「完全にヤバい人ですよそれ」


そんな彼にズケズケとモノを言うのは、いつもの従者ではなく、とある地下組織の教祖。

シンスはさも当然のように王城のガウナに会いに来ていた。


「“彼女”がぶん投げた靴を後生大事にとっておくとか、ヤバい以外の何者でもない」

「……こうして眺めていると、彼女の温もりを感じられると思わないかい?」

「あんたのキモさが感じられます」


辛辣。そんなことはわかっている。だが、あの夢のような時間が忘れられない。彼女の手を握った時の温もりを、彼女の笑顔を……殺意を隠した綺麗な瞳を。


「手掛かりは? 彼女に魔力があったら……あ、無かったんすね」


どよん、とした目のガウナを見て、シンスはせせら笑ってきた。同情してくれてもいいのでは? とも思うが、そんな温い関係ではないのでそれは求めることができない。


ガウナは、靴から目を離した。


「それで、ヘッジ子爵の行方は?」


それを問われ、シンスは肩をすくめる。


「依然として掴めず。近しい者を拷問して居場所を聞こうにも、一番の候補は燃やされましたし、お手上げですね」

「まさか、自分で燃やすとはね……」


昨日の夜。ルクレール・ヘッジ元子爵は、舞踏会でガウナに刃を向けてきた後、姿をくらました。

彼が王都でよく訪れていた孤児院は全焼。中からは、大人一人と、複数の子供の遺体が見つかった。


一体誰が火をつけたのか? 世間はそう騒いでいるが、ガウナにはわかった。たぶん、ルクレールだ。


「利用される」と言っていたルクレールが、何者かの助けを借りて、王城の厳重な警備を掻い潜り、そして、見張り役に気付かれることなく孤児院を燃やした。そう、


「明らかに、“魔法”を使える者が背後にいるね。しかも、とんでもなく性格が悪いのが」

「性格悪いしこっちの手が封じられてる。あの英雄信者の世論操作も、“悪人”には通じませんからね。王都通信社や施療院みたいにはいかない」

「貶めることはできるけど、最初から燃えてる人物だからね。そして、世論操作に邪魔な“魔法”を使っている……嫌な予感がしてきた」


ガウナは胃が痛くなるのを感じた。脳裏に、地下で出会ったあの男が過ぎった。


「明らかにセブンスでしょ。この陰湿さ、こっちの手を無効にするような駒の動かし方」


言ってほしくなかったが、シンスも同じことを考えていたらしい。頬が引きつっている。


「最強が相手ですよ、燃えて来ましたね」


棒読。ガウナは藍色の目を澱ませた。


「……ジルト君を餌に使ったと知ったら、どうすると思う?」

「うーん、わかんないけど。それを口実にこの国ごと燃やしそうですよね!」

「だよねぇ」


ガウナは突っ伏した。詰みである。


……セブンス・レイク。

ジルトの師匠にして、世界最強の魔術師。冷酷で愉快犯のような赤髪の男は、地下に閉じ込められていたガウナを「邪魔だから」という理由で命の危機に陥れた人物である。

風魔法と土魔法を同時に操り、ガウナを生き埋めにしようとしてきた。なんでも、王宮へのトンネル開通作業をしていたのだとか。


「あの理不尽の塊が、子爵の背後にいるとなると、気が重くなるよ」

「でも、こうも考えられますよ。あの理不尽の塊が、“彼女”の背後にいるって」


顔を上げたガウナに、シンスが言う。


「ルクレールと“彼女”は、知り合いっぽかったんでしょ? それをつなげてんのがセブンスと考えれば、向き合う気にもなりません?」

「……なる。どのみち選り好みなんてしていられないからね。セブンスだろうと、なんだろうと、倒すまでさ」 

「その意気っすよ、つーか、俺の見立てだと……まあいいや。ところで、セブンスを倒すには純粋な武力がいると思うんですけど、あの武力バカは? 学園見張ってるんですか?」


そう聞かれ、ガウナは“それ”を思い出して、頭を抱えた。


「……クライスなら、人質をとってなおミュール嬢と互角だったことを反省して……山籠りに」

「……は?」

「修行してくるそうだよ」

「……アイツはやっぱり馬鹿なんじゃないですか?」


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