初対面
公爵戦第1ラウンド
辻馬車に揺られて十数分。ジルトは、立派な門構えの公爵邸の前で執事らしき男に迎えられた。
「バルフィン様、主がお待ちです。どうぞ」
撫でつけられた黒髪と、整った容貌。スーツを着ているが、ジルトはその顔に見覚えがあった。
「あの時の衛兵さん、ですよね?」
何かあるとは思っていたが、公爵の手先とは。道理でリルウに驚かなかったはずだ。
衛兵改め、公爵の執事は、自らをクライス・エドガーと名乗った。話し方は淡々としていて、余計な詮索はしてこない。
色々と便利なんだろうな、と思う。
なにせ、これから会う公爵は、王都の立て直しに成功した敏腕公爵でありながら、その出自が不明。
災害の時に蔓延していた、救ってくれるなら誰でもいいというマジックは、平和ボケした世の中で解けかかっている。
今やゴシップ紙が手ぐすね引いて、不祥事の記事を書こうとしているという噂もある。
情報漏洩の点で言えば、クライスのような執事は便利なのだろう。
客間に通されて、ジルトは部屋を見回した。落ち着いた色の調度品だ。あまり華美なものはない。
ソファに座れば、クライスが紅茶を淹れてくれた。
「それと」
たっぷりの沈黙。クライスは意を決したように、ジルトの目の前の机に何かを置いた。
それは、大きさ自体は手のひらサイズなのに、なぜか仰々しい包装がされている。赤いリボンが複雑に結えてあって、解くのが大変そうだ。ジルトは、包みをじっと見た。何かの罠ではなさそうだが。
「これは?」
「……とある方からです。お帰りになる際、感想を聞かせてもらえると幸いです」
言ってはなんだが、クライスからはいやいややっているオーラが感じられた。
クライスが出て行った後、ジルトは公爵を待ちがてら紅茶を飲み、包み紙を開いてみる。
中に入っていたのは、クッキーだった。
「うまい」
程よい甘さと塩味。口の中でバターの濃厚さが広がる。形自体は歪なのに、材料で全てを補っている。数枚食べて、はっとしてジルトはそれを鞄にしまった。クッキーに癒されている場合ではなかった。
これから会うのは、一癖も二癖もあるだろう公爵だ。気を引き締めていかなければ!
そう思った時だった。
ドアがノックされて、公爵が入ってくる。すらりとした長身と、氷の美貌を持つ公爵は、社交界でも御婦人方の注目の的である。
動作全てが洗練されている公爵は、ジルトの向かい側のソファに座る。
「君が、ジルト君か」
藍色の目が、ジルトを射抜く。自然と背筋が伸びる。
ごくりと、唾を飲み込んだ。
公爵が、口を開いた。
「ところで、君には同じ年頃の姉妹か、親戚の女の子がいるかな?」




