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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
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繰り糸

ガウナ君によるファンサービス回

シンスは黒曜石の瞳に呆れの色を滲ませていた。


この公爵、突然来て突然どこかに行ったかと思えば、ここに軟禁してるガキを煽りに行っていたらしい。子供か。 


「馬鹿なんですか? テンション高いのバレバレだったでしょ」


思いっきり冷めた目で見てやっているというのに、ガウナはどこ吹く風という態度。高確率で澱んでいる藍色の瞳が、今日は変に輝いている。


こんなことなら、つけあがる材料を与えるんじゃなかった……シンスはそう思った。


早朝からのお宅訪問をかましてきた目の前の男は、シンスに『魔女列伝』の三十四ページについて詳しく聞きたいと言ってきた。ようやく魔女の生まれ変わりという自覚が出てきたか。

シンスはノリノリで書庫から件の本を持ってきて、ガウナに魔女がどれだけ素晴らしいか解説してやった。その結果がこれである。


「魔女は英雄に会う前に予知夢を見た。それも、二回。最初に彼女が見たのは、舞踏会で誰かと踊る夢。次に見たのは、その誰かと結ばれる夢。どちらも幸福な夢だった」

「はいはい、良かったっすね。完全な一致」


座っていたソファから立ち上がり、大仰な身振りで浮かれたように語り出すガウナに、シンスはおざなりに拍手をしてやる。目が死んでいる。


「……それは、暗い森の中で一人孤独に過ごしてきた彼女にとって、“曙光”と言えるものだった。世界は彼女に優しく微笑み、祝福してくれた。一人の可哀想な少女は、こうして、普通の少女への一歩を踏み出したのだ」

「魔女様ぁ……!」 


拍手をやめた。シンスは感極まって、自らも立ち上がった。馬鹿が一人増えた。


しかしながら、魔女の生まれ変わり……同じ魂を持つガウナが口にする言葉は、それほどまでに破壊力があったのである。特に“曙光”という言葉。魔女の束の間の幸せは、信者としてはクローズアップしたいところだ。そこをわかっているとは、流石本人。 


ーーうん、こいつがローズ様の生まれ変わりで良かったかもな。


感涙に咽びながら、シンスはそう思った。最初はリルウ女王陛下が生まれ変わりだと、敬い甲斐があるなーと思っていたが、こいつはこいつで良い。

初恋を追っかけるとか、ある意味ローズ様に似ているし、何よりリルウ陛下より悲壮感がない。そこが一番大事だ。 


リルウをストーキングしていたシンスは、彼女の置かれている状況をよく理解していた。四年前、唯一生き残った王族が、人々の希望になると同時に、どのように謗られたか。 

どうせなら誰々が生き残った方が良かった、あいつが死ねば良かったのに……人のことを言えない人々が口にする言葉は、六歳の子供に向けられる言葉にしては悪意が有り余っていた。


まあ、そんな“どうして”を利用して作り上げたのが、『魔女の信徒』なので人のことは言えないが、利用するにしたって胸糞悪い。シンスとしては、ガウナが魔女であった方が、気持ち的にも楽なのである。  


どうせ神輿を担ぐなら、落としても罪悪感なさそうな奴がいい。だからこそ、心置きなく持ち上げることができる。


相変わらず続くガウナの嬉しそうな語りを聞きながら、シンスはそう思ったのである。




 


一方。


ーーと、まあ、こんな感じでいいかな。


酔った演技をしながら、ガウナはちらりと横目でシンスを見た。


意外と抜け目ない彼のことなので、本心はわからないが、少なくとも目は潤んでいる。それでいい。魔女の不幸な生涯の前兆……束の間の幸せに重点を置いて語り聞かせてみたが、効果はあったようだ。 


ガウナにとって、魔女を崇拝する者たちの気持ちはわからない。『魔女の信徒』たちの話を聞くと、どうやら魔女は高尚な扱いをされているらしい。まるで、救世主のような扱いだ。


幼い頃から怨嗟の声と、醜い愛の言葉を聞かされて育ったガウナには、それがわからない。高尚なんてものではない。私情の塊である。  


だが、ここは隠れ蓑にちょうどいいし、別の理由もある。まだ、この教団を手放すわけにはいかない。英雄信仰の彼ならともかく、この教団はまだ、利用価値がある。


魔女の生涯は、零から始まり零に終わった。もっと言えば、足し算と引き算の過程を経ているが。


願わくば、明日会うであろう彼女が、永遠に足し算の方でありますように。

魔女が失って、僕がやっと知った“良心”が、永遠に僕のものでありますように。






“良心”。


笑うしかないその二文字の正体を、ついぞとして俺は掴めなかった。


ミラさんって結構巨乳なんだよな。背中に感じる温かな感触に、そんなことを考えてしまう。


「お願いです、ルクレールさん……いなくならないで、生きていて、お願い……」


失って、喪ったミラさんは、まるで子供みたいに駄々をこねて、俺を行かせようとしてくれない。細い腕に力を込めて、俺のことを抱きしめてくる。


「私のことは、どうなったっていいの。私の過去が暴かれたっていい。だって、私は死ぬべきなんだから。こんなやり直しを、する資格なんてないんだから」

「死んでいい人間なんて、この世に一人もいませんよ」


そっと彼女の腕を外す。傷ついた顔をする彼女だが、これは拒絶じゃない。安心して欲しい。


ああ、だから俺は彼女のことが好きなのかもしれないな。自分が生きてる資格があるのか常に不安で、間違えてないか不安で。人を助けることで、楽になろうとしている。 


世の人は、これを偽善というのだろう。

仮にそれを偽善としたとして、彼女の偽善はお綺麗すぎる。たぶん、“良心”とやらの一欠片ぐらいはあるんじゃないか? ああ、俺にはない。


なにせ、俺は。





 

神様の繰り糸は目に見えず、死んではじめて操られていたとわかる。

それを生きてるうちに見る方法は、ただ一つ。











「だから僕は、あの日に全てを焼き尽くした。僕は、糸を断ちたかったんだ」 


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