違和感が降り積もる
拝啓、お師匠様。
俺がこの学園に通う時に、貴方は言いましたね。
『目立つ真似だけはするなよ』と。
だけど一つ言わせてください。俺は、去年は式典に出席したのです。終わった頃には昼時で、密かに楽しみにしていた大通りの露店に行きましたが、すっからかんでした。店のおばちゃんに、「みんなグルメに飢えてるからねえ。だいたいうまいものは午前中で捌けるんだよ」と言われて、お情けの串焼きをもらいました。
だから、俺は心に決めたのです。
貴族の来賓のだらだらだらだら、英雄様にかこつけて自らの功績を称えさせようとする演説と、英雄式典限定で売られる早い者勝ちのうまいもの。
どちらを優先するべきかは、明確だと思います。
そう、美味いも、
嘘です学園行事である式典です、なので俺を掴むのをやめてくれませんかファニタ様。
現実逃避で師匠に手紙をしたためてしまった。
クラスメイトの少女ーーファニタ・アドレナに襟を掴んで揺さぶられながら、ジルトは吐き気と戦っていた。
「あれだけ出なさいって言ったでしょうが!?なんで出ないのよ!?」
「詳しくは俺が師匠に認めた手紙をみてくれ、脳内の」
「解剖してあげましょうか!?」
「そういえば、式典ってどうなったんだ? あとこれ以上やったらお前の制服にリバースするぞ」
そう言うと、ファニタは渋々ジルトの制服を離した。
これだけ騒いだのに、セント・アルバート学園二年一組のクラスメイトの反応といったら「またやってら」「懲りないですわね」という目線で生温かく見られている。
学年主席のファニタ・アドレナと、落ちこぼれのジルト・バルフィン。二人の言い合いは、もはや日常茶飯事だった。
それなのに、ファニタはこの私としたことがみたいな顔をして、取り繕うようにこほんと咳をする。彼女は根っからの貴族だとジルトは思う。
「結局、リルウ陛下は不在で終わったわ。公爵は焦った様子もなくて、私たちに謝罪してくださったけど……これじゃあ、リルウ陛下の立場はますます悪くなる」
「自主的にサボったなら自業自得だろ?」
「なんでサボり確定なのよ。やむに止まれぬ事情かもしれないじゃない」
そりゃ、本人に聞いたから……とは言えない。あのことは秘密にしておいた方がいい。
「でも、おかしいのよね」
「何が?」
ジルトがあの小さな少女のことを思い出していると、ファニタが少し声のトーンを落とした。
「公爵のお話。この国唯一の王族であるリルウ陛下が行方不明というのに、苦笑一つだけで、よくあることですから、って。おかしくない?」
「……まあな」
リルウの話振り、それとファニタの違和感、そして薔薇の魔女の信者……それらを含めて、ジルトは頷いた。
一国の主が逃げ出し、行方不明だというのに、つつがなく行われた式典。
リルウを送っていった時に、城門にいた衛兵らしき黒髪の男が、さして驚かなかったこと。
これらは全て、馬の骨公爵の仕業だと考えていいだろう。
外出届を書き終わり、詰所にいる門番に渡す。
週末、よく王都のグルメを食べに行くジルトは、ここの常連だ。
「ほいよ、門限の九時までには帰ってこいよ」
「わかりました」
門番のフレッドもろくに読みもせず、気軽に許可を出してくれる。もはや顔パスである。
学園から出て少し歩く。西に行けば大通り、東に行けば、貴族の邸が立ち並ぶ郊外。
ジルトは迷わず、東に向かって歩を進めた……。




