表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
79/446

やっと、笑ってくれた

なんで女装をしてたの回

いてもいなくても困らない存在。それが自分だった。


二階のパーティー会場からは、楽しげな音楽が聞こえて来る。耳を塞いで、リルウは自室のベッドで、布団をかぶって引きこもっていた。


六歳だったリルウは、布団の中で呪詛を吐く。


「きらい、きらいきらい……」


私より優れている兄や姉、無関心の父。表面上だけは優しい家臣たち。なにより、そんな状況に甘んじている自分。


何もかもが嫌いだった。今日だって、父の誕生日なのに、祝う気持ちになれないリルウは参加を拒否した。周囲の人たちはそれを当然のように受け止めて、リルウを置いてパーティー会場に行ってしまった。


別に、誘ってほしかったわけではない。行きたくもない。けれど、ただ、存在だけは認めてほしかった。


枕に顔を押し付けて、声を出さないようにする。

誰も見ていないところで、リルウは静かに泣いた。涙が武器になるのは、世渡り上手な姉たちだ。リルウが泣いても、弱みを見せるだけ。


でも、今日は皆、どうせここにはいない。リルウは枕から顔を剥がし、声を出して泣いた。


一度タガがはずれると、止められなかった。泣き続けるリルウは、扉が開けられたことに気付かなかった。


「どうしたの? 大丈夫?」


急に声をかけられて、リルウの肩が跳ねた。


「……」


声も出せないリルウの元に、少年は近づいてくる。かと思いきや、少し間を空けて止まった。


「声が聞こえたから、こっちに来てみたんだ。驚かせてごめんね」


優しい口調だが、それがリルウの癇に障った。灰色の髪の少年は、皺ひとつない礼服を着ていて、それなりの家の子だとわかる。曇りのない草色の瞳も明るく輝いていて、きっとリルウみたいな扱いをされていないんだろうと思った。


「僕の名前はジルト・ドラガーゼ。君は?」


やっぱり。リルウはジルトに嫌悪感を覚えた。


「貴方みたいな恵まれた人には教えてあげない」


ドラガーゼ公爵家の、たった一人の後継ぎ。それが彼だった。


苦難の道を歩むリルウとは違って、平坦な道を歩むであろう彼に、リルウはそっぽを向いた。


「困ったな、どうすれば、名前を教えてくれるの?」

「貴方が私と同じところに落ちてきたら」


意地悪をする気持ちで、リルウは言った。


「貴方が女の子で、誰にも必要とされなくて、自分の代わりがたくさんいる人になったら」

「なるほど、それが君が泣いてる理由なんだね」

「……っ!」


かっとして、リルウは枕を掴んだ。そして、ジルトに向かって両手で投げた。が。


「なんで避けるの!」

「いや、当たったら痛いし……」


あえなく床に落ちた枕を拾って、ジルトはよいしょとサイドテーブルの上に置く。リルウの元には近づいてくれない。

それがなんとなく気に入らなくて、リルウは叫んだ。


「出てってよ! もう、私のことなんて構わないで!」

「うん、わかった。じゃあね!」

「え」


物分かりが良すぎるジルトは、明るく笑って、リルウに手を振った。


()()()()()()()()()()()!」


ドアノブに手をかけて、ジルトは行ってしまった。




誰に見放された時よりも、リルウは絶望していた。ほんの数分間会っただけの男の子なのに、家族よりも臣下よりも、予言をして会いに行っていた男よりも。リルウは彼に嫌われたくなかった。


「う、うぇ、ひぐっ……」


泣きながら、サイドテーブルの枕をとろうとする。ベッドから、自分の領域から下りて、彼のいた領域へと。


だがそこには、彼がいない。


嗚咽が止まらない。今すぐ扉を開けて、彼の後を追いたいけれど、もしも決定的な……拒絶を彼にされたらと思うと、リルウの足はすくんでしまった。


枕をとって、ベッドに戻る。ジルトが優しい手つきで拾ってくれた枕を抱きしめれば、いっそう泣きたい気持ちが強くなった。


やがて、泣き疲れたリルウは、眠りの中に入っていき……











かちゃり。


ドアノブの回る音がして、リルウは目を覚ました。


「……あ、起きた?」


寝起きで、頭が働いてないのだと思った。もしくは自分の願望。


目の前には、リルウと同じ金色の髪の女の子が立っていた。桃色のドレスは、彼女の瞳と好対照で、よく似合っている。彼女の、草色の瞳に。


「はじめまして、私の名前は、えっと、シルク! シルク・ウォールカっていうの。よろしくね!」


ただし、声は先程の彼のもので。リルウは、彼が女の子の格好をしているのだと、すぐにわかった。


跳ね除けることもできたけれど、リルウは差し出された手を取り、名前を名乗る。嬉しそうに輝いた彼の顔を見て、思わず笑ってしまう。


「やっと、笑ってくれた」


その声は、驚くほどに優しい声で。リルウが目を丸くしたのを、ジルトは別の意味に取ったようだ。


「あ、いや、違う! えーっと、さっきのジルトって男の子から聞いていて、それで……」


あたふたするジルトに、リルウは問いかける。先程とは違う態度を意識して。


「私を、笑わせに来てくれたのですか?」

「もちろん!」


迷いのない答えを聞いた途端、とくり、と心臓が音を立てた。顔に血が上るのを感じて、リルウは顔を伏せた。


「だ、大丈夫? どこか悪いの?」

「う、ううん。あの、シルク……お姉様、私と一緒に、絵本を読んでくれませんか?」


この人と一緒なら、嫌いな絵本も、きっと。




そうして、身を寄せ合って、ベッドの上で絵本を読んだ。

魔女が嫌だと嘆くリルウに、お姉様は……ジルトは、自分が魔女になると言ってくれた。


そうしたら、リルウがお姫様になれると言ってくれたけれど。リルウは、別にお姫様になれなくてもいいのだ。


ただ、彼の優しさが嬉しかっただけ。おんなじところに落ちてくれる彼の優しさがあれば、嫌いだった物語は、そんなに嫌いじゃなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ