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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
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毒花

ガウナと彼女は、王城のバルコニーで二人きりだった。


音声は聞こえない。けれど、ガウナは“彼女”に何かを語りかけていた。満点の星空を指さしながら、嬉しそうに。


“彼女”も笑っていた。あの頃と変わらない、穢れなき草色の瞳に、ガウナが映っている。自分と目を合わせてくれる彼女の姿もまた、ガウナの藍色の瞳に映っているのだろうと思う。


やはり彼女こそ、僕の“良心”だ……。ガウナは彼女の頬に手をかけ、そして……。



どしゃっ。



枕を壁に投げつけ、ガウナは、据わった目で呟いた。


「もう少しだったのに」


カーテンを開ければ、朝の光が部屋に差し込んできた。もう一回寝れば続きが見られるんじゃないかな。そう思ったりするガウナだが。


「うう、でも、今日は会議が入ってるし、それに、次の裁判もあるし……」


ぶつぶつ呟きながら、なんとかベッドから這い出る。くらやみではやることがなかったが、地上に出たら出たで時間に追われるとは、人生ままならないものだ。


「まあこれも、人並みの幸せの結果だよね」


夢に未練を残しながら、ガウナはとりあえず、日課の予知をしてみる。何も視えない。はい終わり。施療院を燃やし、せっかくたくさんの魔力を吸収したというのに、予知能力には何にも影響してくれない。


「ローズも予知を磨いてくれていればよかったのに……」


見当違いの恨みをご先祖さまにぶつける。予知さえできていれば、“彼女”なんてあっという間に見つかるのに。


平坦な道はつまらないとルクレールに言ったばかりだが、あれは取り消そう。“彼女”に関しては、舗装された道を歩きたいものだ。


だから、孤児院に来たという“彼女”が、願わくば本物でありますように。


ガウナはその希望だけに縋って、朝の支度を整えた。







やっぱり一日考えてもわからなかった。


ルクレールと話して出た矛盾を、朝の騒がしい教室でファニタに話してみる。


ファニタは少しだけ考えて、


「……臆病だったから」


答えを出した。


「臆病?」


ジルトは、ファニタの言葉に首を傾げた。『アッカディヤの魔術儀式』の時以外、あまり動揺を見せなかったあの公爵が、臆病? 


「彼は、擬態しているのよ。公爵という地位、異端を裁く立場にね。それはどうしてか。魔法を使えて、人には言えない出生……子爵に言った言葉だと、もう一つの王族ね」

「地位や立場でカモフラしてるってことか?」


ファニタは頷く。


「それで、矛盾のことだけど。それは翻意(ほんい)と考えればいいんじゃないかしら? 先の事件……論文事件って呼ぶとして。その論文事件か、その後に、彼は何かで確証を得た。“彼女”が生きてるっていう確証を。そこから先は簡単ね」

「……簡単?」


目を丸くするジルトに、ファニタは微笑む。


「要は、なりふり構わなくなったってことよ。()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()。その方向に舵を切った。全ては、“彼女”のために」


ジルトは天井を仰いだ。すべての転換点は“彼女”か。


あの人を食ったような公爵に、そんな感情があるとは思えないが、たしかにそう考えると納得がいく。


それにしても。ジルトは、目の前の彼女を見る。当事者よりも、それらしきものにたどり着いてしまうとは、さすがは天才。


ジルトは惜しみない賞賛をファニタに送る。


「やっぱ、お前を共犯者にしてよかったよ」

「ふ、ふふふ、そんなこと言っておだてようなんて、ふふふ」

「いや、本心からなんだけど。やっぱお前って頭いいよな。俺の味方になってくれて、ありがとう」

「……!」


笑い止まぬファニタは、突然顔を赤くしたと思うと、レネの席の方へと走って行った。


「なんだあいつ……?」


天才とはわからないものである、たぶん。


まあそれはとにかく。ファニタの推理によると、あの公爵の中で“彼女”とやらは大きな存在らしい。嘘だらけのあの公爵の隙を突くなら大事な要素になるだろう……。


これはルクレールさんと共有しなければ。


そう意気込むジルトに、嵐が訪れるのはもうすぐ。






放課後。アリア・ソリュースは、とある人物の来訪を受けた。


学園の応接室で待っていたのは、アリアの主人である、ミュール・フランベルクという女性。王国でも指折りの業績を誇るフランベルク商会の会頭でありながら、メイド服を脱ごうとしない変わり者。


その彼女は、アリアの差し出した写真を見て、紫炎色の瞳に不思議な色を浮かべていた。


「間違いありません。お嬢様の若い頃にそっくりです」


初めは感動の色を浮かべていた。けれど、次には楽しそうな、それでいて残酷な色を浮かべている。炎から産まれ直したと言ってもいい彼女は、口元に笑みを浮かべていた。


「ああ、嬉しいです。また、会えるだなんて」


夢見るような口調で、ミュールは頬に手を当てる。当然のように写真を自身の懐にしまい、アリアの方を見て言う。


「ありがとう、アリア。私はこれでやっと、前を向くことができるわ」 


花の綻ぶような笑顔。これだ。これが、アリアが好きな笑顔。ただし、ミュールの場合、綻ぶのは。


「それなのに、ジルト様は、このことを黙っているんですよね。いけないなあ、皆に知らせてあげなくちゃ。何か、いい舞台はないかしら?」

「それなら、とっておきの舞台がありますよ?」


アリアは、わざとらしい主人の芝居に乗り、提案をしてやる。そう、花は花でも、この人の笑みで綻ぶのは、毒花だ。



「王城で行われる舞踏会。彼をそこに、招待してはいかがでしょう?」


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