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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
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恋する乙女と花の笑み

次の日。ジルトは教室の外で、ファニタに制服とカツラを返した。


「ありがとな。たぶん気付かれなかったわ」

「すっごく可愛かったからね」

「可愛くねーわ」


世迷言を言うファニタにジト目を向ける。


「それにしても、本当に洗濯しなくていいのか? それ」

「え、ええ! 匂いをたんのっじゃなくて、あとでまとめてお洗濯するから大丈夫!」


わたわたと、なぜか慌て気味にファニタが言う。


「そっか。カツラ貸してくれたって言う演劇部の人にも、お礼を言っておいてくれ」

「なんのなんの! お礼なんていいから女装を見せてくれればいいよ!」

「!?」


突然背中をぱしんと叩かれた。ジルトが背後を振り返れば、そこには真っ白なカチューシャでオレンジ色の髪をまとめた美少女が立っていた。


「……どちら様?」

「あ、アリア先輩! ジルト、この人が、カツラを貸してくれた人よ」


訝しむジルトに、ファニタが紹介してくれる。アリア先輩なる人物は、ひらひらと片手を振って挨拶してくれた。


「はじめまして、バルフィン君! 私の名前はアリア・ソリュース! この学園の演劇部の部長を務める者だ! ついでにそこのアドレナちゃんを勧誘しては振られている可哀想な先輩だよ!」

「せ、先輩……」


今度はファニタが困惑気味に言う。たしかにファニタは綺麗な見た目をしているが、演技に関してはどうだろうか。ジルトは植樹祭の日の彼女を思い出す。


「先輩、こいつ大根役者っすよ。演技なんて無理無理」


ギロリと睨むファニタの視線をいなし、ジルトは首を振る。だが、アリアは納得していないようだ。


「むう……でも、あの時のアドレナちゃんはたしかに感情がこもっていたけど」

「あの時?」

「校舎裏で、恋愛小説をおんど……」

「せ、ん、ぱ、いっ! 私、先輩に話したいことがあったんです! ちょっと来ていただいていいですか!?」


ファニタが必死な顔をして、アリアの腕を取って引きずっていく。


「あはは、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのにな〜? じゃあねバルフィン君! またしたくなったら言ってくれよな〜?」


引きずられながら、呑気に手を振る先輩。ジルトは軽く手を振りながら、苦笑い。まるで、嵐のような人である。




アリアはファニタと出会った校舎裏で、壁に背をもたれてにやにやと笑った。


「で、どうだった? 彼氏の女装は」

「か、彼氏じゃないですよ」


その言葉に若干頬を染めながら、ファニタは一枚の写真をアリアに手渡す。


「手伝ってくれたお礼です。本人も了承済みですので、心配しないでください」

「ほ、ほおお……超可愛いじゃないか……」

「そうでしょうそうでしょう」


なぜか自分のことのように得意げなファニタ。

写真には、金色の髪に草色の瞳をした可愛い女の子が映っていた。ただし、表情は引き攣っていて、せっかくの可愛さが半減されているが。


「了承済み……?」

「可愛い可愛いって褒めていたらそんな顔になっちゃって。事実を言っただけなのに」


好きが有り余ってそうなファニタのとろけた表情に、アリアは苦笑い。


「まあ、アドレナちゃんが幸せそうでよかったよ。恋する乙女っていうのは、やっぱり可愛いね」

「恋っ……べ、別に私は」

「あはは、素直じゃないなあ」


一度は離れたと聞いたが、元に戻ったようで何より。アリアは初めてファニタに会った時のことを思い出した。


校舎裏のベンチのそば。図書館で借りてきた恋愛小説らしきものを片手に熱演していた彼女は、きらきらと輝いていた。


「と、とにかく! 私の頼みを聞いてくれてありがとうございました! 演劇部に入るのは無理ですけど、私にできることがあったら言ってください!」


ふんすとやる気を見せるファニタに、アリアは笑う。


「あはは、アドレナちゃんの頼みとあらばお安い御用さ。それに、確認したいこともあったし」

「確認したいこと……?」

「……うん。アドレナちゃんがバルフィン君に相当お熱ってことだよ!」


アリアは揶揄うように言って、ファニタの肩を叩き。






その写真を大切にしまって、鼻歌を歌いながら廊下を歩く。


アリア・ソリュースは心底楽しそうな笑みを浮かべていた。


この写真を見せたら、あの人はきっと喜んでくれる。アリアは、あの人の花の綻んだような笑顔が好きだった。

同時に、可愛い後輩の恋路を応援したい気持ちもあるけれど、今の気持ちとしては、あの人の方を優先したい。あの人が時折見せる憂いの顔を、あの呪いを解いてやりたい。


……四年前に無くした生きる希望を、もう一度見せてあげたい。


だから、アリアは、可愛い後輩の思い人に事前に謝っておく。


「ちょっと巻き込んじゃうけど、悪いことじゃないと思うから。ごめんね、バルフィン君」


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