表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
73/446

夢視る公爵

ある意味復讐の話ですね

眩いばかりの金の髪は、照明の下できらきらと輝いていた。


草色の瞳は慈愛の色が滲んでいて、“彼女”の変わらない善性が感じ取れた。


手を差し出せば、あの頃から成長した彼女はおずおずとガウナの手をとり。


そうして、幸せな時間はーー。


「まあ、お約束だよね」


ベッドで目を覚ましたガウナは、深い深いため息をついた。






ガウナは幼い頃から、魔女の呪詛を聞いて育った。呪わしい、呪わしい、呪わしい。

同時に、誰かに向けられる愛しているという言葉も、幾度となく、ガウナの内側で響いていた。


それは、寝ている時も、起きている時も、何をしている時でさえ聞こえてきた。


正直気が狂いそうだといえば、別にそうでもなかった。幼い頃からくらやみに閉じ込められていたガウナにとって、それは一人ではないという気持ちにさせてくれたからだ。


もう一つ。魔女の声を聞いていれば、なんだか暗闇から出ることができそうな気がした。ガウナは彼女を利用しようと思った。


くらやみに閉じ込められて、何年経ったのだろう。ある日を境にして、料理が格段に美味くなり、便所が流れるようになり、肌触りのいい衣服が届くようになった。


人の欲望は際限がない。衣・食・住が曲がりなりにも確保されれば、次は安全だ。

親切な人物が壊してくれた扉の鍵と、垂らしてくれた梯子。ガウナは闇に紛れそうな黒い服を選んで、それを着た。梯子を登って、“自分を知っている人達”を殺すことに決めた。


折しも今日は、たくさんの人々が集まっていた。


まずは、ガウナの脱走にいち早く気づいた人々。どこにいたのかわからないが駆けつけてきたその人々を、彼らから奪った剣で殺し、自分の代わりに暗闇に投げ入れた。


家族から引き離し、くらやみに閉じ込めた髭面の男。これも暗闇に投げ入れた。それから、ガウナを買おうとした高慢な女も。そして。この現場を見ていた会場の人全員。は、投げ入れるのは無理だったから放置。


ほとんどの人は、その場にあったナイフで事足りた。歯応えがありそうな人物には、()から取り戻した、魔女の“加護”つきの小刀で応戦した。


特に、最後の最後、妻を庇って死んだ男は手強かった。


そうだ、それで、“彼女”に出会った。


愛着のある小刀を探している最中、死んだ男のそばに跪いて、背中のそれを抜き取ろうとしていた優しい女の子。“彼女”はまさに、ガウナの“良心”だった。


金色の髪に草色の瞳。履き慣れないかのような踵の高い靴で向かってきた“彼女”は、ガウナに愛おしさを覚えさせた。


火種を落とした瞬間、ガウナの中の呪詛と、愛の言葉は聞こえなくなっていた。きっと運命は変わっていなかったけれど、それはガウナにとって、運命以外の何かを手に入れた瞬間だった。



暗闇に閉じ込められていたガウナだが、どこかの魔女が中に入っているせいで、知識だけは無駄にあったし、生きていくだけの……つまり、邪魔者を排除するための魔法も簡単に会得できた。


幸いにして、ガウナは努力することを厭わなかった。最初のうちは気を失いそうになったりしたが、魔法を使い続けることにより、コツを掴んでいった。 


初めに覚えたのは、ローズが得意としていた炎の魔法。これは、あの日に覚えた。


自分で落とした火種を広げて、王都にまで広がるようにした。と、いっても、今回施療院を襲った時に使ったような、全てを焼き尽くす魔法ではなく、あくまでも火の手が延びる魔法である。


当時のガウナにそんなに知識はなかったし、なにより誰が魔法を知っているかわからないので、迂闊に何もかもは燃やせない。ガウナには、魔女の知識や常識はあっても、自分をとりまく状況の知識はなかった。


ただ、王宮だけを燃やしたら怪しまれるので、全てひっくるめて燃やそうと思っただけである。


次に覚えたのが空間魔法。


これはおそらく、王宮の地下に閉じ込められていたことが原因だ。誰かが鍵を開けて、梯子を垂らしてくれなくては脱出できなかった。


たぶん無意識に覚えようとしたのだろう。これは便利だ。さきの王都通信社事件の時にも役に立ち、看守に気づかれることなくヘルマンに直接接触し、そして、鍵の工作をすることもできた。ガウナと“契約”を交わしている者も使用できるのも利点である。まあ、それは弱点でもあるのだが。



魔法を手に入れ、リルウを見出したガウナは、復興のどさくさに公爵になり、宰相になった。馬の骨と揶揄されたが、一応、王家の血が流れているのだけれど。


そんなことを言えるはずもなく、ガウナはその手腕で仮初の地位を確固たるものにして、成り上がっていった。


自己顕示欲が強い魔女の独り言を聞いていたから、それが反面教師になって、地位にしがみついて下手を打つ人々のようにはならなかった。


あの日から聞こえなくなった魔女の言葉。呪詛より何より、ガウナには、愛の言葉が耳に残った。


『何を犠牲にしてもいい。あの人に愛されたい。私だけを見て、私と一緒に死んでほしい』


くらやみで聞いていた時には何とも思わなかった言葉は、あの日を境に、ガウナに共感を呼んだ。


ーーやっぱり、僕も魔女と同じ血が流れているんだな。


ガウナは苦笑して、長い思索の末に冷めたコーヒーを飲んだ。


「正夢だったらいいのになあ」


死んだと思ったら生きていてくれた。それなら、現れないと思ったら現れてくれた、が叶ってもいいではないか。


そんなことを思う朝。机の上に広げられた新聞では、ダグラスの彼が操作した世論が踊っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ