石段会話
補足分
ルクレールが銀色の住環境を整備しようと決心した頃。
「……なんだか、とっても楽しそう」
コミュ障のお姫様は、今日も家族にハブられていて、王宮近くの、誰も来ない石の階段で膝を抱えていた。
他の兄弟姉妹と同じく、紅い瞳は変わらないのに、この娘だけが不憫なのである。王族であることに変わりはないのに、何が違うのか、ルクレールにはわからない。
あの人格者、王国の太陽とも言われるトウェル・ソレイユが、自分と血のつながった娘をこうも放置することが、ルクレールにはわからなかった。
わかるのは、この娘の異様に低い自己肯定感だけ。六歳にしてこんなに暗いなんて、将来が心配になる。
「というか、なんで俺が来る時間ぴったりにいるんだよ。もしかしたら、ずっとここにいるのか?」
「そんなわけないでしょう。私は、ただ“予言”しただけ。“ルクレール・ヘッジがここに来て、退屈な私の相手になってくれますように”って」
「なんだそりゃ」
じゃあ何だ、俺は、このお姫様の予言に従ってここに来ているのか?
「まるでダグラスみたいだな」
言って、自分の言葉に苦笑する。戦場にいた頃には、予知ができる一族なんて与太話だと一笑に付しただろうが、銀色という異常な存在を相手にしている今となっては、それを信じることもできてしまう。
ルクレールの言葉を受けたリルウは、相変わらずの沈んだ瞳で、「みたいじゃなくて、そうなのよ」と呟いた。その瞳は、地面に落ちて時間の経った血のようなドス黒さを備えている。
石段に座っていたリルウは立ち上がった。ルクレールは、さっと目を背けた。
「なかなか紳士じゃない」
「うるせえ」
一国のお姫様にこのような口の利き方をしても許してもらえる間柄。と言ったら聞こえは良いが、許してもらえることこそが問題なのである。国において、王族の権威というものは、こうも軽々しく扱われてはならない。
上位下達の尊ばれる戦場にいたルクレールには、それが歪に思えて仕方がない。
歪なお姫様は、とん、とん、と階段を降りながら、ルクレールのそばまで来た。
「この先には、何があるの? 貴方は、何に会いにきてるの?」
「……教えられねえ」
「そう」
リルウは追及しなかった。するだけ無駄というように。けれど、敢えてそれを言ったのは。
すれ違いざま、振り向いたお姫様は、不思議な笑みを浮かべていた。
「予言しましょう。貴方はこれから、罪を犯す」
「罪?」
咄嗟に思い浮かべたのは、銀色のことだった。ひと一人の衣食住の環境を整えてやることの、どこが罪だっていうんだ。
「そもそも、罪ってんなら、既に王様が犯してるだろ」
この時のルクレールは、銀色にだいぶ、肩入れしていた。だからそう言った。
どうしてあの銀色は、地下に閉じ込められているのだろう。化け物だと言う同僚は、何を知っているのだろう。
化け物だったら殺してしまえば良い。でもそれができないのは、こちら側に、後ろ暗いことがあるからだ。
だんだんと育っていく疑念と正義感。銀色への同情。それらに駆られて、ルクレールは吐き捨てた。リルウは何も答えなかった。
孤独なお姫様は、それきりルクレールの前に姿を現さなかった。




