理想の復讐
プロデューサー二人
ジルトはこれまでのことを、簡潔に話した。あの公爵との因縁、リルウとの出会い、王都通信社、ルクレールに言われたこと。
話していくうちに、本当にこれでいいのか、という疑問も湧いてくる。こんな独り善がりなことに、目の前の二人を巻き込んでいいのか。
そして何より、二人はこんな自分に失望していないだろうか。
なにせ、ジルトは公爵を殺したいと思ったことを隠さずに話したから、そこのあたりは少し不安だった。
殺意を抱いている人間は、その理由がどうであれ危険に思われるかもしれない。だが、そのことだけは話しておきたかった。それが、ジルトをジルトたらしめていることだったからだ。
全てを我慢強く聞いてくれた二人は、それぞれ別の感想を持ったようだ。
ハルバは、難しそうな顔をしている。
「……つまり、お前が前に話してた、家族が殺されたって話。その犯人が、アウグスト公爵ってことか」
「そう。ついでに、四年前の火事は人為的で、あいつが悪意を持ってやったことだから、お前が気に病む必要はないんだ」
やっと言えた。ジルトはそう思った。
自分の復讐のためにハルバに真実を伝えなかったのは、ジルトの中に大きなわだかまりとして残っていた。
「そりゃ、本人かも知れない奴の目の前では言えないよな。でも、家族が殺された話をして俺を引き止めてくれたわけだ。ありがとな」
「……」
まさか、礼を言われるなんて。ジルトは言葉に詰まった。なんでもっと早く言わなかった、と詰られるかと思っていた。
「復讐っていう点では」
今度はファニタが切り出す。彼女は神妙な顔をして言った。
「相手のことをよく知るのが大事よ。後悔しないように」
青い瞳が真剣さに象られていた。てっきり、復讐なんてやめろと言われるかと思っていたジルトは、目を丸くした。思わず、聞いてしまう。
「止めないのか?」
やはり、ファニタは首を横に振る。
「私は成り行きとは言え復讐したもの。状況が違うかもしれないけど、もし貴方がそうするなら、経験者としてアドバイスしておかなきゃ。あとから実はいい人だった的なことが発覚したら、意外と良い子の貴方は散々悩むことになる」
「意外とは余計じゃね?」
「それだったら普段の問題児っぷりを改めることね。いい? 良い復讐とは、後悔しない復讐なのよ」
復讐に良いも悪いもあるか。ジルトはそう言いたかったが、ファニタの話を聞くことにした。
「正直私の復讐は失敗したと思ってるわ。アゼラ伯爵は別の人の手で殺されたから。私の復讐は、あの人が『アッカディヤの魔術儀式』の結論を追い求めて死んでいくことだったから」
『魔女の信徒』の教祖にされ、死刑になったアゼラ伯爵。一度はした復讐が、失敗に終わったと彼女は言っている。
「やるからには、完璧な復讐をしないと。それで、その人のことをさっぱり忘れちゃう復讐。貴方が前に進めて、それ以外のことを見られるようになる復讐」
ファニタは目を細めて言った。
「それが、貴方のするべき復讐よ」
「……そんな綺麗な復讐できるか?」
「できるさ」
それに答えたのはハルバだった。自分の目元を指さし、そしてファニタの方を指さし。
「俺の予知と、アドレナさんの知力。それが備われば向かうところ敵なし。理想の復讐をお前にお届けできるぜ」
「理想の、復讐……」
考えたことなかった。今までどろどろとしていて、汚くて、後悔しかないのが自分の復讐だと思っていた。それなのに、目の前の二人は、ジルトの殺意もひっくるめて、それをきれいに昇華させようとしてくれている。
きっと難しい。けれど、鬱屈した殺意を抱えているよりも、きっと良い。
ジルトは、笑った。
「まったく、お前らはバカな奴らだよ……よろしく頼むよ。共犯者ども」
「おうとも! 完全犯罪は任せろ!」
「やっと、笑ってくれた」
ハルバの元気すぎる返事と、ファニタの言葉に既視感を覚えながら、ジルトは“理想の復讐”へと踏み出した。
明けゆく空は、黄昏と同じ色をしていた。
「それでも」
彼女は呟く。波打つ金髪に、紅い瞳。悲恋の魔女にそっくりの容姿。生まれながらにしてくらやみに近いところにいた彼女は、呟いた。
「それでも、私は、貴方の傍にいたいのです」
貴方を光に導くことができなくても。貴方を不幸にするとしても。
たとえ地獄に堕ちようとも。たとえ地獄に堕とそうとも。
「だから、私は……」




