二対一
現在、五時十五分。
「ダメになる前に言いなさいって言ったでしょ」
「まだダメじゃねーよ」
部屋に入るなり説教か。ジルトはささくれた気持ちでファニタの言葉に反論する。
「大丈夫って言っただろ。ほっといてくれよ」
「それがさあ、あんまり大丈夫じゃなさそうだから、俺らはここに来たんだよな。このままだとお前、死んじゃうかもよ?」
何をいまさら。ジルトはハルバの言葉を鼻で笑う。
「死んだとしても、目的を達成できれば本望だよ」
「ほら、こいつも結構めんどくせえ奴だろ?」
ハルバもまた、ジルトの言葉を鼻で笑って、ファニタの方を見て言う。
「自分が死ぬことなんてなんとも思っちゃいないんだよ。だけど、それはお前が否定したことだぞ」
「……」
「俺だって、まあうまく言えないけど、罪悪感から逃れるために死のうとした。アドレナさんだってそうだったんだろ? それをお前が勝手に助けた」
「……それは、成り行きで」
「だったら、私たちが成り行きで助けたって文句ないわよね? 本人の意思を無視して」
「……」
二対一って、結構卑怯なのではないだろうか。ジルトは密かに思った。
「正直さ、植樹祭でアドレナさんに心配された時、どう思った? 嬉しく思わなかったか? 俺はお前たちが式典会場に現れた時嬉しかったぞ。こんな役立たずにも価値を認めてくれるやつらがいたってな」
少し自虐をしつつ、ハルバが目線を逸らしながら言う。
「わ、私も、貴方が現れた時、すっごくホッとして、それで……!」
「それは補正込みだけどな」
なぜか照れながら言ったファニタの言葉を笑顔でばっさり切り捨てるハルバ。
「ま、そういうことだ。嬉しかっただろ? だったらその嬉しさを大切にして、素直に俺らを混ぜろ」
「だけど、これは俺の」
「話したくないことは話さなくていい。俺だって、胸にしまっておきたいことはあるからな。だけど、お前が何に困ってるのかを聞かせろ。何をしたいかを聞かせろ」
何をしたいか?
決まっている、それは復讐だ。
だけど、そんなことを話したら、目の前の親友たちは、どんな顔をするのだろうか?
ジルトはそれが怖かった。いつの間にか、失望されたくないという気持ちが芽生えていた。こんなに汚い感情を持っている自分を知られたくなかった。
独り善がり。
それは、自分以外に理解されることなどないという諦めからだ。
師匠はそれがわかっていて、別のベクトルの優しさをくれた。復讐をしたいというジルトに、まったく違う復讐を示して、自身の復讐をしないでいる。
それは、たぶんジルトのせいだ。
お試しの復讐なんて銘打って、ジルトを止めようとしている。それが終わらない限り、ジルトが復讐することはないと信じているように。
ジルトはそれがわかっていたから、師匠への手紙にガウナの話は書かなかった。そんなことを書いたらストップをかけられる、という気持ちも確かにあった。でも、一番の理由は。
「失望されたくなかったんだよ。勝手にお前たちを眩しいって思ってさ、だから……」
「俺らは発光物体だった……?」
「比喩でしょ」
若干ふざけ気味のハルバに、短く突っ込むファニタ。彼女はジルトのことを半眼で見て、両肩にぽん、と手を置く。
「『お前って、面倒くさい性格してるよな』」
次いで、にっ、と笑う。彼女にしては粗暴な笑みだ。
「ね、ジルト。それを思ってるの、貴方だけだと思った?」
「俺らだって、そう思ってたわ」
ハルバも呆れ気味に言う。
「だから、お前が何をしたいかを聞かせろ。それだけでいいから」
「それだけでいいって、全体像なんだけど?」
ジルトは半眼になりつつ、それを口にした。もうどうにでもなれ。そんな気分で、そしてやっぱり、むず痒いものを感じながら。




