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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
願いの代償
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魔女信者と英雄信者

ブーメラン会話をする二人

書類と戦いながら、ガウナは不満そうに呟いた。


「全く終わらない……」


植樹祭の協賛者、ルクレール。彼に会って確かめたいことがあるのだが、仕事が、終わらない。


「宰相としてサボってたツケが回ってきたんすよ。あははははざまみろ」  


なぜか執務室にいるシンスはバカにしたような口ぶりで煽ってくる。


「君はなぜここにいるんだい?」

「ご報告に伺った次第っすよ。あんたの従者に背信の気配はないですってね」


そう言って、コーヒーを飲むシンス。


「うっま、これ絶対高い豆でしょ」

「勝手に淹れてるし……」

「まあまあ、はいどうぞ」 


ことん、と置かれるカップ。ガウナは図らずも、水面に映った自分の顔を見てしまう……疲れている。 


「それで、あんたの従者、あのジルトとかいうガキをあんたの理解者にしてやりたいらしいですよ。だから肩入れしてるらしいっす」

「理解者? ジルト君を?」 


何を思ってそんなことを。ガウナは目を丸くした。 


「僕とジルト君じゃ、反りが合わなそうだけど」

「俺もそう思うんですけどね、紙一重って言葉があるらしいんで。だから、ちょっとアドバイスしときました。あと、明日からまた『魔女の信徒』はじめるんでヨロシク」

「ああ、金髪の子を……」

「誘拐はしないですねえ。仕事しすぎてダメになってきたなこれ。そんじゃ、それだけです」


シンスは勝手に座っていたソファから立ち上がり、ひらひらと手を振って退室した。




ばたん、と扉を閉める。シンスはため息一つ、呟く。 


「て、ことだから、俺は理解者の方を推すぞ。残念だったな、気狂いさんよ」


空気が動いた。どこにいたのか、シンスの前には黒瞳の彼が立っている。


「それは困りますねえ。あの方には、是非とも魔女を討ってもらわないと。そういうシナリオなんですから」

「……はっ、相変わらず気持ち悪い奴らだな。そんなんだからアルバートに嫌われんだよ」

「ローズに嫌われてたあなた方に言われたくはないですね」


見えない火花が散る。シンスは舌打ちした。


「ローズ様を呼び捨てしてんじゃねーぞてめえ。公爵の探し人が見つかった暁には殺してやるからな」

「その前にあの方が目覚めますから。そちらこそ、夜道にお気をつけて」

「けっ」


公爵も変なやつを仲間にしたものだ。よりによってダグラスの英雄信者とは。


「でも馬鹿なお前のおかげで、あのガキがそうだとわかったのは僥倖ってとこかな。英雄信仰の蛆虫どもは臭いを嗅ぎつけるのが早いからなあ?」

「魔女信者の誰かさんは間違えましたけどね」

「可愛い女の子がいいなあっていう願望があったんだよ! あー、お前を相手にすると疲れるわ。とっとと死ねや」 


王城に来たのはこの気狂いと会って牽制する目的があったからだが、いかんせん狂人の相手は疲れる。  

シンスはずかずかと廊下を歩き、必死こいて作った“抜け穴”を通って『魔女の信徒』本部へと帰った。


「それにしても、まさかまさかのアイツが英雄様ねえ」


椅子の背もたれをギーコギーコと揺らしながら呟く。


公爵の元に突如として現れた、予知能力付きの不思議な男。公爵に言われて身元を探っているうちに、シンスは彼の目的を理解した。


だから、嫌がらせしてやろうと思った。

あのガキが英雄の生まれ変わりで、薔薇の魔女を討つ運命にあるのなら。薔薇の魔女の理解者にまで堕としてやって、魔女と仲良くさせれば奴らの鼻っ柱をへし折れる。


魔女信者と英雄信者は絶望的に仲が悪い。お互いがお互いを、蛇蝎のように嫌っている。


初対面ながらも、シンスとあのダグラスのクソチートはお互いの立場を理解していた。公爵も英雄の話をされたというのに、よくもまあ受け入れようと思ったものだ。


受け入れの時、『ドラガーゼの直系を。英雄の血が流れる者を』とか気障ったらしく言ってたらしいが、やはり気持ち悪い。

と、いうか。

シンスははたと気付く。


ーーいや、アイツ公爵家なの!?


確かに、王国三大公爵家のドラガーゼ家は、王家から枝分かれしてるから、アルバートの血を引いているのはわかる。


ーーだけど、四年前の火事でドラガーゼとディーチェルは滅んだんだろ。なんで生きてるんだ? あいつ。


シンスは唸り、まあ、大方セブンスのせいだな、と強引に納得した。あの俺様魔術師の弟子だっていうんだから、なんかすごい技で生き残ったんだろ、と思うことにする。


「それより、明日から信者どもが帰ってくるからな! 原稿作ろ!」


久しぶりの集会だ。シンスは一瞬浮かんだ疑問を打ち消した……。






一方。

金髪をハーフアップにして、キャスケットを被った美少女女王様は、ジルトの腕をとってるんたるんたと歩いていた。


「お兄様はこれからどこへ行くんですか?」

「あー、ちょっと野暮用で」


大丈夫かな、この女王様。ジルトはキョロキョロあたりを見回して、黒髪の従者の姿を探す。


「クライスならついてきていますよ。でも、私がお兄様とデート気分を楽しみたいので遠くからついてくるだけです」

「デート気分ね、はいはい」


おざなりな返事になってしまったのを感じ取ったのか、リルウは頬を膨らます。


「私は本気なのに……それで、お兄様はどこへ行くんですか?」

「野暮用で…………孤児院」 


無言の圧を押し付けながらニコニコ笑ってくるリルウに、ジルトは根負けした。


「孤児院……もしかして、式典会場の近くの孤児院ですか?」

「そうだけど、なんでわかったんだ?」

「この方向だと、一つしかありませんから。こちらの方が近道ですよ。行きましょう」 


なんだか頼もしいリルウは、ジルトの腕を引っ張って案内してくれる。


「随分詳しいんだな?」

「あそこの孤児院は、我が国の福祉政策におけるモデルとなる施設ですから……というのは建前で、王宮があった場所の周辺は把握しているんです。なにせ、暇でしたし」

「暇?」

「私は、無関心の中で生きてきましたから」 


十歳の少女は自嘲していた。


「私が何をしても、父上も家臣も、全く見向きもしなかったんです。王位継承権が最下位で、非力な私は、誰にも必要とされなかった」


道は狭くなっていた。簡素な木造の孤児院からは、賑やかな声が聞こえてくる。


「着きましたね。入りましょうか」


ジルトは頷いた。


「ああ。でも、一つだけいいか?」

「なんですか?」

「少なくとも、トウェル王はリーちゃんのことを見ていたよ。だって、俺は……」


言おうとして、ジルトは押し黙った。


ーーだって、なんだ。なんで、出てこないんだ。 


「ああ、これが、代償なのね」


リルウの声が、どこか遠くに聞こえた。


「ごめんなさい、忘れてくださいお兄様。ごめんなさい……」


どこか泣きそうな声。頬に濡れた感触。


「それでも、私はーー」




気づいた時には、孤児院の中にいた。


くすんだ金髪の彼は、ジルトとリルウを見て開口一番。 

「門前でいちゃいちゃすんじゃねえよ」

「は?」


何言ってんだこの人? ジルトは首を傾げ、


「げふっ」


リルウの拳がルクレールに突き刺さった。

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