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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
願いの代償
61/446

大丈夫

ファニタは不安だった。


ジルトが暗い顔をし始めたのは、『アッカディヤの魔術儀式』での一件。公爵を殴った後、星空を見て呟いた言葉は聞こえなかったが、その時から、彼が何かを考える時間が増えた。 


きっと、何か思い悩んでいることがあるんだろう。最近、なぜかふらりと姿を消すことが増えた。その後に帰ってきた彼は、きっと。


あの時の私と、ハルバと、同じ目をしていた。  


そんな話を、なぜか帰ってきていたハルバにすると、ハルバも頷いてくれた。「家族を殺されたって言ってたけど、たぶん、なんか違うんだろうな」と言って、ファニタの案に賛成してくれた。おそらく彼もそのために帰ってきてたんだろう。それで、勘の鋭いレネも加わって、植樹祭へと行ったわけだが……。


道中は呆れながらも笑っていたジルトは、ルクレールが挨拶をした途端、ずっと彼のことを目で追っている。それが、ファニタの不安を掻き立てる。


気のせいかもしれない。だけど、ジルトの瞳が、濁りとは違う色になっている。入学式の日からずっと、ジルトを見てきたファニタにはそれがわかった。


だから、植樹祭が終わって、学園に帰ろうという時、ファニタは聞いてしまった。


「ねえジルト、大丈夫、よね?」

「何がだ?」

「えっと、リルウ陛下よ。公爵は、もう諦めたのよね」

「さあ、どうだか。またロクでもないこと考えてそうな顔だったぜ」


半眼で笑うジルト。


「まあでも、任せとけ。俺がなんとかしてや……」

「なんとかって、どうするの?」


声が低くなった。ファニタの瞳は、きっと揺らいでいる。


「伯爵の時もそう、ハルバだって、言ってたでしょ? なんとかって、安全な手段? 貴方の命を大切にする手段?」

「……とは、言えねえかも」

「だったら、私も混ぜてよ」


ファニタの言葉に、ジルトは首を振る。


「ダメだ。これは俺だけのモノなんだから……話は終わり。帰るぞ」


レネとハルバが近づいてくるのを見ながら、ファニタは不満ながらも頷いた。これ以上踏み込めば、きっと彼は姿を消してしまう。


「まあでも」


幾分か柔らかい声が聞こえた。


「俺がどうしてもダメになった時は頼むよ」

「……ダメになる前に言いなさいよ」


ファニタも少しだけ笑った。



「何なんですのこれ、私たち近づいていいんですの?」

「ムカつくから早く合流してやろうぜ」 



二人がそんな会話をしていたことは、知る由もなかった。






本音を言えば、嬉しかった。


街中を歩きながら、ジルトは昨日のことを思い出した。自分を心配してくれるファニタの優しさが嬉しかった。そして、怖かった。


ファニタと接していると、ジルトは自分がわからなくなる。

ジルトに残されたものは復讐だけじゃない。セブンスは憎まれ口を叩きながらも優しさをくれたし、学園に入ってからも、ハルバやファニタという親友ができた。


だがあの日、確かにジルトの運命は決まってしまった。ガウナと対峙したあの日、ジルトは強烈な憎悪を抱き、目的のために生きてきた。


それを今更変えるなんて出来っこないが、ファニタを見ていると……小さな復讐を達成した彼女を見ていると、迷いが生じる。


それでもジルトは、今こうして歩いている。突き動かされるようにして、ソフィアが手紙で教えてくれた孤児院へと向かっている。

自分はただの一学生。なので、ルクレールのことを教えてくれるかはわからないが、教えてくれなかったら教えてくれなかったで良い……そうジルトが思い始めていた、その時。


「あら、すみません」


あまり人通りも多くないというのに、ジルトは誰かにぶつかった。と、いうより、誰かにぶつかられた。

キャスケットを被った少女がぺこりと頭を下げてくる。ジルトは固まった。


なぜなら、その少女には見覚えがあったからだ。

格好は普通の町娘。だが、溢れる気品は隠しようがなく。


ジルトは、“設定”の名前を呟いた。


「リーちゃん……!?」

「はい。貴方のリーちゃんです、お兄様」


紅い瞳を細めて、小さな女王は朗らかに笑った。


この話で一番の不憫はリーちゃんです

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