薔薇の魔女
一つ目。
セント・アルバートという学園が、英雄と結びつきを持ったこと。
古典大好きな創設者が、英雄にあやかって校名をつけただけでなんの関係もないのだが、これ幸いとノリノリに。
あの学園長がノリノリになるのは心底疑問だが、セント・アルバートは一応王立であるから、今のご時世に沿わなければならないこともあるのだろう。世知辛いことである。
事情はともかく。セント・アルバートでは、四年前から、全校生徒を集めて王都の会場で英雄式典を行なっている。
おかげでジルトはセント・アルバートの生徒として、式典に参加しなければならなくなった、というのは罪に数えていいだろう。
二つ目は、王家の血を揺るがしかねない噂。
どこからともなく現れた馬の骨公爵が担ぎ出した、王家唯一の生き残りであるリルウ。
妖精と讃えられる彼女だが、一部の人々には、その容姿を指してこう言われている。
ーー彼女は、魔女の生まれ変わりだ。
「覚えておきなさい。はるか未来、私は必ず蘇る。貴方たち王家に、きっと復讐を果たしに来ます。それまでは、さようなら」
恨み骨髄という形相をした金色の髪の女優が、自らに火をつける真似をし、奈落へと落ちる。
劇は、薔薇の魔女を退治した騎士アルバートがセレス姫と結ばれ、王に成り国を導くところで終幕を迎える。
簡素な劇場から、人々が退出していく。
およそ一時間の劇。凝った体を揉みほぐしながら、ジルトは伸びをして、隣に座るリルウに話しかける。
「いやあ、けっこう面白かったな。英雄譚なのにあんまり爽やかじゃないところとか」
ジルトも英雄アルバートの話は知っているが、この劇はどうやらそれをとりまくヒロイン二人の脚色を多くしたものらしい。要は女同士の戦いがえぐい、高尚さとは無縁のものだった。
「やはりローズは詰めが甘いですね。私なら、もっとうまくするのに」
えぐい劇を見せられたリルウの感想を聞いて、ジルトは口元を引き攣らせた。なんだその分析。
「いや、ローズもけっこう悪どいことしてたぞ? 侍女を唆して姫さま殺そうとするとか、けっこうえぐかったぞ。姫さまもアルバートにあることないこと吹き込んでたけど」
「魔法を使えば思いのままなのに、最後の最後までアルバートの目を気にして使いませんでしたね。純な女の子って感じです」
「リーちゃんは何目線で見てるんだ」
「気持ちがわからないでもないですから。前例として」
後半の言葉は小さかった。ジルトは、少し考え……ぴんときてしまった。
「落ち着けリーちゃん、公爵は心配しなくてもロリコンだから、リーちゃん一筋のはずだ!」
「そんな心配微塵もしてないのですが?」
帰ってきたのは極寒の視線だった。
ジルトとしては、場を和ませたかったからそんな話をしたのだが。
ーーまあ、ローズに入れ込むのも無理はないよな。
ジルトは草色の瞳を眇めた。
アルバートに敵わぬ恋をし、王都を混乱に陥れた薔薇の魔女。
その血筋から、セレス姫と重ねられるはずだったリルウは、金の髪、紅い瞳、人々を魅了する美貌というあまりもの一致に、いつしか、薔薇の魔女の生まれ変わりだと信じられるようになったのである。




