動機
久しぶりの学生サイド。光のサイドともいう。
きっと、君も同じであると信じて。
まず、今度開催される植樹祭に参加してください。そこには、彼が来ます。
それは、三日前にジルトの元に届いた。差出人は書いていない。けれど、ジルトにはわかった。
『てがみよんでね』
彼女が命を落とす前に呟いた、最期の言葉。ジルトに託された、公爵を引き摺り下ろすための手段。
三文芝居は本物に変わった。あの不思議な警邏官の男が殺したのだ。
「植樹祭、ねぇ……」
ガウナが司法の面においても盤石になりつつある今、たしかにその足場を崩す情報は必要だ。ソフィアの手紙によれば、四年前のことを知る人物が植樹祭に参加するらしいが……実のところ、ジルトは迷っていた。
その人物に接触しようとすれば、必然、ジルトの身元も晒さなければいけなくなる。ただの一学生が四年前のことを調べているのは怪しすぎる。
公爵のような地位、ソフィアのような職業……四年前のことを調べても怪しくない、そんなものがあればいいのだが。
そんなことを考え、窓から差し込む朝日を見ていると、こんこん。やや強めのノックの音が聞こえた。
「誰だ……?」
こんな朝から訪ねてくるのはハルバくらいだが、たしか彼は実家に帰っているはず。訝しみながらドアを開けたジルトの視界に入ってきたのは、まさかのそのハルバだった。今回は手ぶら。「よっ」と片手を上げる。
「あれ? お前、帰ってたんじゃないのか?」
『アッカディヤの魔術儀式』でひと騒動あった後、ハルバは実家に帰る日にちが長くなった。きっと彼なりに、少しずつ、何かを考えて、学んでいるんだろう。
ハルバは「そうなんだけど」と言いつつ、照れ臭そうに笑った。
「お前と一緒に、植樹祭に行こうと思ってさ。急遽帰ってきた。一人で行くのにはまだちょっと辛いもんがあるから、誘いに来たんだよ」
「ハルバ……」
「巻き込んでしまって悪いけど、頼む。この通り!」
「……俺も、行こうと思ってたんだよ」
顔の前で手を合わせるハルバに、ジルトは笑った。ハルバの言葉が嬉しくて、そして眩しかった。
男子寮から出れば、入り口付近に佇んでいたのはファニタ。そして、レネである。
「あ、じるととはるばだー。おはよう。ぐうぜんねー」
「ファニタ、棒読みですわよ」
「う、嘘!?」
「何やってんだ、お前は」
ファニタの挙動不審さに呆れていれば、ハルバがばんばん肩を叩いてきた。どうやら爆笑しているらしい。
「き、昨日から練習しててこれ、これって……あはははは!!」
「は、ハルバっ、なんで言っちゃうのよ!?」
「悪い悪い、どうせバレると思ってさ。ってことだ、ジルト。アドレナさん、最近お前が元気ないって俺に相談してきたからさ、ここは“やる気なし同盟”の盟友である俺が一肌脱いだってわけ」
「少しは元気が出まして?」
「……」
この時ジルトは、自分の視野の狭さがわかった。復讐なんて言ってるが、自分はただの一学生。
周りから見ればジルトが暗いことを考えているのは、「元気がないように見える」のだ。ファニタたちはそんなジルトを心配して、外に連れ出そうとしてくれている。
ジルトは急に照れ臭くなって、半眼でファニタの方を見た。
「まあな。ファニタの下手な演技を見て元気が出たよ。ありがとな」
「む、ムカつく……!」
だが、ジルトは気づいていなかった。自分のその口元が綻んでいたことに。
「ほら、早く行きましょう。植樹祭は王立自然公園で行われますわ。ここからは少し遠いので、馬車で行きましょうか?」
「そーだな。と言いたいところだが、不満そうなのがいるぞ」
そうハルバに言われて、レネは二人の視線を感じたようだ。
「か、金持ち思考……」
「レネ、お金は大事よ?」
ジルトはレネの発言に引いているし、ファニタに至ってはレネを諭そうとしている。
「俺は人の出した金でしか馬車に乗らねえぞ」
「私も……」
「それもどうかと思いますが」
ため息をつくレネ。まあまあと笑うハルバ。
「しょうがないですわね、少し遠いですが歩いて参りましょうか。べ、別に皆さんとお話する時間が長くなっても、私には悪くないことですし?」
そんなレネの微妙なツンデレに苦笑する一同。
学園の門を抜ける時、フレッドは四人を見て笑い、ファニタが外出許可証を出す時、何かを耳打ちしていた。
「は、はいっ、わかりました!」
なぜか赤面したファニタに聞いてみても、首を振るばかり。ジルトはフレッドに何を言ったか聞いてみたが、フレッドはニヤニヤとして教えてくれない。
「まー、楽しんで来いよ。いってらっしゃい」
「い、行ってきます……?」
首を傾げて会場へ向かった少年。フレッドは他の生徒の許可証に判子を押しながら、相も変わらずニヤニヤしていた。
そうだ、それでいい。
まだ十四のガキが、そんなに背負う必要はない。暗い顔して暗いことを考えるよりも、今あるものを大切にして、嬉しいことや悲しいことを積み上げてくれれば、それでいいのだ。
ダグラスの傍流がちょっかい出してこようが、公爵に復讐の炎を燃やそうが。
ーーあんたの弟子は、きっと大丈夫ですよ。先輩。
晴れかな空は、フレッドの気持ちを代弁してくれているようで。この素晴らしい出来事を手紙に書き起こそうと、彼は思ったのであった。




