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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
醜聞を握らざる者
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連鎖と傍観の一族

これでよかったんだ、と、フェイディオはひとりごちた。




そもそも、ことは三年前から遡る。


とある貴族の不祥事を追っていたビーリフ・シャウナーという青年が死亡した事件だ。


真昼の王都通信社が襲撃され、彼が殺された事件は、同じ王都通信社の目撃者がいながらも、犯人は見つからず、捜査は打ち止め。それは、フェイディオの心に深い傷を残した。


そして、今回の事件では、同じくフェイディオのところに取材に来たソフィアと、その社長が殺された。


共通点があるのは当然だ。これは、三年前の事件の模倣なのだから。


三年前のビーリフの死を利用し、そして心を痛めているフェイディオを利用した、ソフィアたちの奸計。


彼女たちは、ヘルマンと共謀して一つの殺人事件を作り上げ、仮初の死を以って公爵を追い詰めようとしたのである……






ーー馬鹿らしい。


ジルトはその朝刊を読み、ため息をついた。

そんな荒唐無稽な話、信じられるはずがない。まだ世間は公爵叩きに必死だし、それを報じているのはこの一紙のみ。きっと、これを読んでいる他の人々も呆れているだろう。


なんの証拠があって、こんなことを報じているのだろう……。






だが、その記事を読んだとある男は、決意をした。長く忘れていた義侠心を、思い出したのである。






次の日の、別の新聞の朝刊。見出しはこうだ。


『三年前の真相 王都通信社の闇』


そもそも、この事件の発端となった三年前の事件こそ、狂言である。


王都通信社の前社員の話によれば、ビーリフ・シャウナーという青年は、殺人ではなく自殺によって死んだのだという。


彼の遺書には、とある貴族を追い詰める道具にしてほしいと書いてあり、それを社長と一部の社員は隠蔽。だが、隠蔽に耐えられなくなった元社員たちは次々と辞めていった……






その記事を読んだフェイディオは、暗い気持ちを保ったまま、何かに突き動かされるようにして、別の新聞社へと赴いた。






『鍵を壊したのは女性記者か 看守長の責任問われる』


ヘルマン・ラート脱獄後、アレリア監獄では牢の鍵が壊されていたことが、偶然訪ねてきた警邏官の指摘により発覚した。看守長は本紙のインタビューに「私が軽率でした。彼女にすっかり気を許していた」と答えた……






その日、アレリア監獄看守長、フェイディオ・マンスは、責任を取り辞任した。

その辞任を受けて、とある新聞社の社長は考える。

「もう公爵叩きのネタはない」と。






『王都通信社事件 証言続々』

『王都通信事件から考える 新聞のあり方とは?』

『ヘルマンと二人の行方は!?』






自らがもたらした『王都通信社狂言殺人』の記事を読んで、フェイディオはなぜか、涙を流していた。生きているだろうという喜びと、騙されたという悲しみ。警邏官が礼を言う言葉も、どこか遠くに聞こえた。






さて。


その警邏官はというと。


制服を脱ぎ、どこかの記者の格好に着替えて、悠々と公爵邸へと赴いた。


銀髪の公爵は、これまで恩を売ってきた人々から励ましの便りをもらってご満悦である。


「お疲れ様。今回は本当によく働いてくれたね」

「お褒めに預かり光栄です」


彼はいつもの穏やかな笑みを以って、ガウナの賞賛を受け入れた。


「ただ、ヘルマンをあの二人が殺したという方が、刺激的ではあったと思いますが。なにせ、目撃者を用意した上でのその行為は不自然と、フェイディオ元看守長に指摘されましたからね。彼の納得する事実を考えた結果、そうなりました」

「いや、そこまで高望みはしないさ。狂言というだけで十分だ。あとは二人の亡命を、新聞社なりに吹き込めばいい」

「公爵の用意してくださった資料のおかげです。三年前の事件のおかしなところを指摘すれば、看守長は自ら動いてくれましたよ。彼女たちの狂言ではなく、三年前のことを暴く目的でね」


その言葉に、ガウナは苦笑した。


「なにせ、三年前のことは本当だからね。こちらは、最初に嘘をでっち上げるお家芸を利用させてもらったまでだ」


そう。三年前の疑惑は、フェイディオ看守長のタガを外すのにぴったりだった。これは彼女たちの自滅とも言えるだろう。


「でも、世論の動きを読んだのは君だ……さすが、ダグラスといったところかな?」


ガウナの指摘に、彼は目を丸くした。いくぶんかわざとらしく。


「おや、そこまで気付いていましたか?」

「僕も魔術師だからね。君からは、ダグラス特有の魔力を感じた。あのお嬢さんからもね」

「ええ。同族とは認めたくもない愚か者でしたがね」


吐き捨てる。これがダグラス本来の姿だ。今の本家当主と、前当主は情に溢れすぎている。


ガウナには、彼のその冷酷さこそ好ましかった。


「それで、今回の働きで信を得た君は、僕に何を望む?」


待ってましたと言わんばかりに、釣り上がる口の端。獣じみた光を黒瞳にみなぎらせ、彼は(こいねが)う。


「ドラガーゼの直系を。英雄の血が流れる者を」

「良いだろう。薔薇の魔女ローズの名において、汝に祝福があらんことを」





こうして青年は、この悲劇とも喜劇ともつかない不思議な劇の特等席を手に入れたのである。

ダグラスは、傍観の一族だ。





「だから、お前は泣くなよ鬱陶しい」








あと1話で醜聞編はおしまいです。長かった…

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