魔術と魔法
凡人による天才評。
シンスはフライパンを振っていた。
「よっと、おらっ、どうだ!」
フライパンの上で華麗に踊るパンケーキ。綺麗な焼き色がまんべんなくついたそれを、いい感じの皿に載せれば、朝食の完成である。
「つまり」
椅子に座り、パンケーキの上に切り分けたバターを乗せ、その上からハチミツをかける。
「これが、俺の魔術。魔法とは違うぞ。どっかの公爵とどっかのアホアホ魔術師は、自分がヤバいのを自覚してないから、魔術と魔法の区別がついてないだけでな」
「普通にパンケーキを作っただけですね」
皿を目の前に出されたクライスは、シンスの腕には感心しているようだが、どこかわかっていない様子である。
だが、魔法どころか魔術に触れていない人間の反応なんてそんなものである。
「そう。代償が違う。俺が粉を振るって材料混ぜて焼く、こんなに労力をかけて作ってるパンケーキを、あの化け物どもは材料用意して、指パッチンひとつで作れる。魔術は所詮魔法の劣化だからな。かなうわけない」
パンケーキを食べ始める二人。
「だから、あのガキどもは英雄式典の会場に“間に合った”。俺が見たのは完璧すぎる“抜け穴”だった」
「セブンス・レイクが作った、と貴方が思われているものですね」
「そう、それ。おんなじショートカットでも、俺のはせいぜい頑張って四、五百メートル。だから地下道をある程度進むしかなかったんだが……たぶん、セブンスのは桁違いのチートだ」
渋い顔をするシンス。
「チート……? よくわからないですが、すごいということですね」
「その漠然とした感想で正解だよ。俺は不正だと思うけどな。で、その不正を、この魔法の衰えた現代でやってのけてるのが、あの公爵ってわけ。自分をハメようとした新聞社を逆にハメて殺したって話だな」
怖い怖い、とシンスは自分の腕をさする。
絶対敵に回したくない人物ナンバーワンである。セブンスはなんとなく見逃してくれそうだからナンバーツーで(甘い考え)。
「それにしても良かったのか? お前、新聞社の連中、結構気に入ってたんだろ? あのガキと意気投合したとか」
「私とは意気投合していません。意気投合してほしいだけです。彼はガウナ様の理解者たりえますから」
「ふーん。よくわからんが、あの性格クソ悪公爵にお友達でも作ってやりたいのか? 俺の見た感じじゃ、あのガキと公爵じゃ絶対反りが合わんぞ」
「紙一重という言葉があります」
「紙を馬鹿にすんなよ。紙ってわりと高いし丈夫なんだからな。経理もやってた俺にはわかる」
「厚さの話ですが」
「わかってるよ」
そんな会話をしながら、シンスとクライスはパンケーキを食べ終わる。
「まあ、お前が新聞社殺したくないーって甘ちゃんじゃなくて良かったよ。あのクソ公爵からは、後追いできた手紙で、お前の真意も問いただすように書かれてたからな」
「そうですか……」
「落ち込むなよ。あの公爵、孤高を気取ってるから、全部疑わないと気が済まないんだよ」
「いえ、問いただすにしても、もう少し相手がいるのではと思っただけです」
「どういう意味!?」
「ごちそうさまでした」
さっさと皿を洗いに行く居候に、シンスはため息をついた。早く引き取りに来てくれないかな、意外とコイツ毒舌なんだよな。胃潰瘍になりそう。
それでもシンスは律儀に二人分のコーヒーを淹れ、テキトーに買ってきた全国紙を手に取り……
「ぶふーっ!?」
まだコーヒーを飲む前で助かった。
「はー、だからあのクソ、今まで大人しくしてたのか。性格悪ッ」
『王都通信社襲撃 狂言と判明』




