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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
醜聞を握らざる者
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嘘と事情聴取

台詞キャンセルは一度やってみたかった

王都通信社襲撃事件から二日。


世間では、その犯人をアウグスト公爵だとする説が、まことしやかに囁かれていた。


穏やかな公爵は、そんな世間の言葉など聞こえていないかのように、ヘルマンを労った。


「君はよくやってくれた。ありがとう。君に任せてよかったよ」

「いえ、そんなことは。それより、俺をあそこから出してくれてありがとうございます」


ヘルマンは頭を下げた。ジルト・バルフィンの暗殺に失敗して以来、牢に入れられていたヘルマンは、目の前の公爵によって助け出された。


あることを、条件に。


「二人の遺体は?」

「山中に埋めました」

「うん、それでいい」


なぜか、公爵は二人の死体をどこかに埋めることをヘルマンに指示した。


「そうしたら、俺は……」

「うん。どこへなりとも。ここで雇うにはリスクがあるけれど、君の技量ならどこでもやっていけるよ。なにせ、君は“孤児院”出身者だからね。そうだ、紹介状を書いてあげよう」


公爵は、机の引き出しを探って紙とペンを探していた。


今だ、とヘルマンは思った。懐から隠し持っていたナイフを取り出し、机の上に飛び乗っ


「殺すしか能がないのなら、やり方を考えるべきだよ」


ぱちん。


指を鳴らす音が聞こえて、ヘルマンは()()を見た。

青く浮かび上がる円陣は、何かの文字らしきものを描いている。


「な、あぁ……ッ!?」


ヘルマンはナイフを取り落とし、喉を掻きむしった。顔を上げた公爵の表情にあるのは……憐憫だ。


苦しい、苦しい。血が沸騰しそうだ、それでいて、指先足先から冷たくなっていく。そう、これは、死である。


「お疲れ様。僕が地獄に落ちるのを、天国で……いや、やっぱり君みたいな男に言うのは勿体ない気がするな。やっぱり“彼女”みたいな小さい女の子じゃないと?」

「こ、の、ロリコンがぁ……!」

「たぶん十歳は差がないし大丈夫だよ。とっとと、死ね」


ヘルマンは目を閉じた。


ーーごめんなさい、ゴート様。俺、仇を取れなかった……。


せめて、彼の墓を作りたかった。ヘルマンを地獄から救い出してくれた、あの伯爵に。だけど、




ごとりと、人形のように床に落ちたヘルマンを見て、ガウナは最後の一撃とばかりに足で蹴った。魔女の祝福。少々雑だが、略式の弔いである。ヘルマンの体は、灰となって崩れ去る。


「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまえってね」


何か違う気がするが、まあいいだろう。ガウナは自身に満ちる魔力を感じた。


王都通信社襲撃事件の生還者は、これで二人。あとは、“彼”が真実に気づけば完成だ。


「悲劇の主人公はすり替わる。そうだろ、ジルト君?」






犯人が捕まるまで外出禁止。


ジルトは学園にある応接室で、警邏官たちに事情聴取を受けていた。


あの惨劇の中にいたジルトのことを刺激しないようにか、ジルトを発見した例の警邏官が、机の上の写真を指差しながら、優しく尋ねた。


「君を襲ったのは、この男だった。間違いない?」

「はい。以前にも、俺は襲われましたから」


ジルトは頷いた。写真の少年……ヘルマン・ラートに、ジルトは二度襲われていた。


「二日前はショックでわからなかったけど……たしかに、彼です」


嘘である。


ジルトはヘルマンを見た瞬間に、クライスに撃退された……あの夕闇の襲撃者だとわかった。だが、言わなかった。実際に殺しているところは見なかったからである。


ジルトが気を失わされる前の襲撃は茶番だった。床に倒れ伏す社長。刃を突き立てられるソフィア。だが、ジルトにはわかりきっていた。その血の色は、臭いは、本物ではなかった。 


おそらく、ソフィアたちが一計を案じたものだったのだろう。ジルトを何かに利用しようとした、目撃者にしようとしたのだと想像がついた。


殺されるところをジルトに見せつけて、気を失わせる。“殺された”事実だけを、ジルトが証言すれば、不可解な殺人事件の出来上がりというわけである。


だが、目を覚ました後の血溜まりは、本物の血溜まりだった。あの夜に見た血溜まりと同じだった。ソフィアが「そうじゃないやつ」と言った原因だろう。


ジルトはそれを話すか考えあぐねていた。だが、本物の血でなかった証拠がない。それに、なぜそう思ったかを話せばジルトも危険人物扱いされてしまうだろう。


だから、ジルトはヘルマンのことだけを話した。


「そうか……彼は事件の日に脱獄していてね。君には怖い思いをさせてしまったね」


憐れむような警邏官。彼はジルトにトラウマを残させないためか、妙に親身である。


「いえ、ありがとうございます」 


ジルトは頭を下げた。全てを言わないことに多少の罪悪感があった。


「俺も、もしかしたら殺されてたかもしれないし。警邏官さんが俺を見つけてくれた時は、すでに誰もいなかったんですか?」

「不甲斐ないことにね。もっと早く駆けつければよかったんだが……」

「いえ、そんなに思い詰めないでください」

「君は優しい子だね」

「優しいなんて、そんな……」


その単語は、どこかの従者を思い出すのでやめてほしい単語である。ジルトがたじろいでいると、


「大丈夫、君が思い病む必要はない。この事件は、すぐに解決するからね」

「え……?」


変わらず優しい笑みで、警邏官の彼は言う。


「きっと、大丈夫だよ」


その言葉は、慰めだったのかもしれないが……ジルトは、寒気を覚えた。


「どうしたのかな?」

「いえ……ありがとうございます」


無理矢理笑みを作って、ジルトは机の下で拳を握りしめた。



上がる偽物の血飛沫と、ソフィアの演技。

ジルトが気を失う前に、見た光景。



『……何があったか、話せるかい?』



どうして、

彼は、そんなことを言ったのだろう。


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