選ばれた英雄譚
臣下と兄では、どっちがマシなんだろうか。やはり臣下の方が給料が発生する分マシなのではないだろうか。
いやそもそも、式典に参加するのと、一国の主のめんどくさそうな事情に首を突っ込むのとは、どちらがマシなのだろうか。
答えは自ずとして、
「式典の方なんだよなあ」
リルウの満足そうな笑顔と共に軽くなっていく財布。ジルトは本日何度目かのため息をついた。
「こんなことなら、あいつの話聞いておけばよかった……」
ジルトは、式典会場で怒り心頭であろうおせっかいなクラスメイトに想いを馳せたのであった。
ジルトとリルウがサボりを決めたのは、英雄式典という行事だ。
かつて、王国の騎士から王に成り上がったアルバート・ドーガーの、とある功績を讃えて行われる式典である。
今年で開催は五回目。四年前、リルウの戴冠式と、公爵の爵位授与と併せて行われたのがはじまりで、歴史が長いとは言えない。
実はそれまで、アルバート・ドーガーの存在は、王都で暇つぶしに読まれる娯楽本の、ほんの一ページを占めるに過ぎなかった。英雄譚集成の中でも、目立つでもない存在のはずだったのだ。
転換点は、四年前の悲劇。
王都の疲れ切った民衆は、それまで見向きもしなかった物語と、自分たちの置かれた立場との符合を見出した。眉唾物の物語に希望を見たのである。
そして、英雄を求めたのは民衆だけではなかった。
王家、ひいては王国の立役者である馬の骨公爵もそれに乗っかりを見せ、王都の復興に利用したので、ますます王家と、英雄アルバートは結びつきを強めてしまったのだ。
そして、その眉唾物の英雄譚は、予期せぬ功罪をもたらした。




