表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
醜聞を握らざる者
47/446

優しさ

ラスボスと主人公は紙一重だと思います。

新聞社からの帰り道。


クライスは、ジルトに言葉を投げかける。


「いくら私でも、すぐには手を出しません」

「でも、公爵に言われたら出すんでしょ?」


ジルトの問いに、返ってきたのは沈黙。前を行くジルトはため息を吐く。


「姿の見えないあんたより、姿の見えるあんたの方が万倍マシですからね。突然出てきて、あの新聞記者さんを殺られたりしたら、たまったもんじゃないし」


そう。だから、ジルトはソフィアに最初に声をかけられた時に、クライスに姿を現させた。自分を監視するクライスが、公爵について探る新聞記者を“アウト”だと判断する恐れがあったからだ。


あの時なにがやばいかといえば、ソフィアの命がやばかったのだ。


「巻き込んでしまったことは謝ります。でも、結果的に良かったでしょ?」


振り返り、笑ってやる。


「公爵をこき下ろす新聞社が、どのくらいの情報を掴んでるかも、俺がどのくらい話すかも、見せてあげたし」






ソフィアに手渡された資料には、公爵の醜聞と思わしきタレコミがびっしりと書いてあった。一番力を入れて書かれていたのは、ロリコン疑惑だ。


「まあ、それしか明確に叩けるところがないんだけどね。ちなみに、世間ではリルウ陛下に似た金髪の幼女が好みだと思われてるけど、私のリサーチではジルト君。君みたいな目の色をした子を好むとわかったわ」

「へえ、そうなんですか」


その点に関しては、大して興味もなかった。どうせ、公爵の幼女趣味は、“彼女”とやらの隠れ蓑に過ぎないのだから。それよりも。


「公爵と伯爵の強い結びつきって?」

「それは、貴方が一番わかってるでしょう?」


ソフィアが資料をめくり、とあるページをジルトに見せる。そこには、ジルトが伯爵邸に乗り込んだ時のタレコミが載っていた。


「論文を燃やすと大声で叫んだ謎の少年。そのそばには公爵家の執事もいたっていうじゃない? それで、伯爵は泣く泣く貴方たちを屋敷の中に招き入れた。つまり、その論文はとっても大切なものってことよね?」

「まあ、そうなりますね」


ジルトの肯定に、ソフィアは気を良くしたらしい。「そこで!」と人差し指を立てて言う。


「その論文こそが、伯爵邸から押収された資料ってことにならないかしら!? 公爵と伯爵の黒いつながり……それは、論文にこそあった!!」


妙に勘のいいソフィアに、ジルトの肝は冷えた。合ってはいないが、限りなく正解に近い。


「なんでそう思うんです?」

「勘よ!」 


堂々と言い放つソフィアに、隣の社長は苦笑い。


「こいつの勘はけっこう当たるんだよ。だから、坊主に話を聞きたいと思ってな。だけど、まさか公爵家の執事さんもついてくるとは」

「ソフィアさんから話を聞いてましたし、誤解を解くには彼も呼んだほうがいいと思って」

「誤解だと?」

「そう、誤解です」


ジルトは、クライスを見て笑う。


「公爵と伯爵はまったく無関係ですよ。クライスさんは、俺に“恩返し”をしてくれただけです」






恩着せがましく言ってみたが、楽観視することなく、クライスは冷静に言う。


「アルネルト様は、私のことをご存知のようでしたので、全て話してくれたのかはわかりません」

「ま、そうですね。でも、これで“殺さない”って選択肢はできたでしょ?」


くるりと向きを変え、ジルトは再び歩き出す。そんなジルトに、クライスはついていく。


「なぜ、あの場で全てを話さなかったのですか」


どうして責めるような口調なんだろう。ジルトは苦笑した。


「あんなちっぽけな新聞社じゃ、世間に相手にされないですよ。ガセネタばかりだし、もっと信用あるところにタレ込まなきゃ」

「つまり、小さな新聞社では力不足だと」

「そうそう」

「貴方は優しいですね」

「……」


ジルトは無言で足を早めた。不意に投げられた言葉が、心を揺らがせた。


優しい? そんなわけない。


ファニタを助けるためとはいえ、伯爵を死に追いやった。彼に諦念を覚えさせ、死刑を受け入れるまでにしたのは、たしかにあの敗北だった。


それなのに、ジルトは伯爵の死をも、復讐の火に焚べた。


ハルバにしたってそうだ。自分が死ねば良かったと思っているであろう彼に、火災の真相を言ったら、罪悪感も薄れるだろうに。


でも、言えなかった。巻き込むかもという心配もたしかにあった。

だが、本当は、復讐を邪魔されたくなかったのだ。


ジルトは、四年前のあの夜から、優しさなんて置いてきてしまった。復讐しかなかったなんて言い訳だ。セブンスはジルトに、復讐以外の道を与えてくれたから。それを選ぼうとしているのは、ジルト自身なのだから。


「買い被り過ぎですよ、俺は、ただ……」


ただ、何なんだろう。


ジルトは、やっと絞り出した自分の声が、震えるのがわかった。ソフィアの命を助けようと、クライスを呼んだことは優しい行為だ。


だが、真実を教えなかったことは? 本当に、巻き込むまいという優しさからか? 


いや違う。



結局のところ、ジルトは、“自分だけ”の復讐をしたいだけなのだ。



「俺は、独り善がりなだけなんです」


ファニタに、一人でできることには限度があると言っておきながら。ジルトは、告解をするかのように。


「誰にも、邪魔されたくない。だから俺は優しいわけがないんです」


言い切った時、冷たい安堵が胸に広がった。


「そうですか、安心しました」


足を止める。振り返れば、クライスは相変わらず生真面目な表情をしていた。


「優しい人は彼に殺されてしまう。殺されない方法は、ただ一つ」




きっと貴方は、彼の理解者になれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ