王都通信
赤髪の彼女は、ため息を吐きつつ言った。
『ガキが復讐とか言ってんじゃねえよ、悲しくなるわ』
それでも復讐したいと訴えるジルトに、彼女はしばらく
考え、いいことを思いついた、と手を打つ。
『じゃあ、お試しってのはどうだ? ちょうど俺にも復讐したい奴がいてさ。この姿に変えたやつなんだけど。お前には俺の復讐をお試しで見てもらう。そんで復讐ってこういうもんなのかー、と学ぶ。そっからどうするかはお前の自由。どーだ?』
よくわからなかったが、ジルトは頷いた。彼女が、ジルトのことを思ってくれていることはわかっていたからだ。
いったん気持ちを整理しようと、週末の買い食いに外に出て、ジルトはクレープを食べながら物思う。
ーーどうするかな、俺。
復讐相手は見つかった。だけど、セブンスがジルトを止めようとして言ってくれた言葉が、ジルトを踏みとどまらせている。
ーーでも、俺は、殺せることを証明しなくちゃいけない。
あの男のわけのわからない“良心”などではないと、証明したかった。人を殺す度に思い出される存在なんて、まっぴらごめんだ。
あの男が蘇らせようとした“彼女”とやらにも同情する。一体どんな聖人だったのやら。四年前にジルトの両親と、王宮にいた人たちをあんなに殺した男が、本性晒してでも会いたい人は、どんな人物なのだろうと少し興味もある。
しかし、ジルトには腑に落ちないことがあった。
ジルトは、四年前の炎は、あの男が落とした火種によるもの、つまり人災だと知っている。それなのに、あの男は『アッカディヤの魔術儀式』の副産物で“彼女”を蘇らせようとした。
つまり、“彼女”は『アッカディヤの魔術儀式』の失敗により、炎で焼かれた存在でなければならない。考えられるのは、それよりもっと前の儀式で死んだ可能性だが……あの公爵はせいぜい二十歳すぎ。この二十年くらいで起こった火災は、アドレナ男爵の論文にも書かれていなかった。
復讐をするには、相手をよく知らなければならない。たぶんまだ、ガウナには隠していることがあるのだろう。それを知らないと、ジルトの復讐は失敗してしまう……。
相打ちはいいとして、相手より先に死ぬのは御免だ。とりあえずドヤ顔でガウナの死体の上に足をかけるぐらいの時間は欲しい。そのあとはどうなっても構わない。
まあその前に、ガウナを守ろうとするであろうクライスにどう勝つかだが。
ジルトが頭を悩ませて歩いていれば、トントン。肩を叩かれる感覚。振り向けば、小柄な若い女性が立っていた。
「ねえ、貴方、伯爵邸の前にいた子よね!?」
「いや、違いますね」
伯爵ってあの伯爵か? 何か猛烈に嫌な予感がしたジルトは、足早に歩き出そうとし、
「待って! 死んだ伯爵のことについて、聞きたいことがあるの!」
足を止めた。
「死んだ……?」
「その様子だと、知らないみたいね」
ずい、と目の前に突きつけられたのは、新聞だった。
「これがウチの社で出してる新聞よ! 私、ソフィア・アルネルト。王都通信の記者なの! よろしくね! 重要参考人くん!」
ガウナは執務室で苦笑していた。
とある新聞社は、戴冠式の日以外はガウナに厳しい。今回のことを“愚行”と称し、トラス判事と一括りにして、ガウナをこき下ろしてくれている。曰く“馬の骨公爵、馬脚を表す”。そういえば、最初にガウナにロリコン疑惑をふっかけたのもこの新聞だった。
取るに足りない三流ゴシップ紙、『王都通信』。
その新聞社だけは、内乱罪の即刻死刑を厳しく評価していた。記者の名前すら書かれておらず、後に小さく訂正記事が載るこのいい加減な新聞は、鬱憤が溜まって娯楽に飢えている読者には好評なゆえに、売れ行きは中々だという。
たかがゴシップ紙。そう思えば放っておいていいのだろうが……。
「“伯爵邸では、裁判の数日前に騒ぎがあった”ね」
その一文だけは、見逃せない。




