エピローグ
「……なこと、……る……ないだろ」
掠れた声で、途切れ途切れに言う。迫り来る銀の刃。そして、頬に当たる雫。
誰かの汚い声が、心の中で木霊して。ああそうかと理解する。
最後の力を、振り絞る。
運命は変えることができない? いいや、運命は変えることができる。それは、自殺の運命にあったチェルシーが、他殺されたことで証明されている。
ーー逆に、言えば。
殺される運命にあるガウナが、
「……っ」
ジルトが息を呑む。ガウナが、ジルトの手を優しく掴んだからだ。
「はなせ」
『神の左耳』を持っている彼は、ガウナが何を考えているかわかるのだろう。
「はなせって、言ってんだろうが!」
半狂乱になって叫ぶ彼の、唇に、人差し指をあてた。五文字の言葉を口にする。
ーー僕はとっても幸せだ。好きな子に看取られて行くし、なにより。
あの最低最悪男の鼻を、明かしてやれるんだから。
火事場の馬鹿力というやつか。それとも、もう、十分血を流したということか。
からん、と音がして、聖剣が地面に落ちる。
「お前……」
「火傷してない? 大丈夫?」
ジルトが拾う前に、ガウナは聖剣を、震える指で握った。ガウナは『薔薇の魔女』じゃない、普通の人間だ。いや、『薔薇の魔女』だって、普通の人間だったのかも。
熱した聖剣を、自分の心臓に突き立てれば、ちゃんと死ねるだろう。
「ジルト君」
「……」
「君に、さっきの言葉は似合わない。お手本を見せてあげる」
恐怖など、微塵も感じなかった。噴き上げる鮮血を、ガウナは、ただ他人事のように見ていた。
血飛沫の向こう、やっぱり泣いている彼の頬に手を添えて、ガウナは、この上ない笑みを浮かべた。
「僕が地獄に落ちるのを、天国で嗤って見ていてくれ」




