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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
445/446

おかえりなさい

これが実質最終話です。この後の話はほんのおまけ。ここまで書くことができたのは、読んでくれた皆様のおかげです。

本当に、ありがとうございます!!

「おう! 待ってたぜお前ら! 俺、楽しみすぎて一時間前に来ちゃったよ。なーニェルハー?」

「ちょ、それ言うのやめてユバル。わ、私もはじめての訓練の時みたいにそわそわして眠れなかったです!」

「それを言うのもどうかと思うぞ」


待ち合わせ場所にて、ユバルとニェルハが口々に言うのを、アントニーが冷めた目でツッコミ。ターゴは額に手を当てて俯いている。


今日は学園が休みの日だ。約束通り、ジルト達は、共和国の面々を王都の観光案内に連れて行くのだが……こうもハードルを上げられると、期待に添えるか不安になってしまう。


「まあ一時間前ってのは嘘な。ほんとは三十分前だ」


三十分前、というのもどうかと思うが。それほど楽しみにしてくれていたということか。ジルトは、こほんと咳払い。


「じゃ、行きましょうか。まずは大通りで、串焼きを食べましょう!」




今回の観光案内のメンバーは八人の大所帯だ。ジルトとファニタ、ハルバのセント・アルバート組に、アントニーとラテラのマルクス侯爵家組。それに、メインの共和国三人組。


できたての串焼きを頬張り、ユバルは歓喜の声を上げた。


「おお、この前もらった串焼きとはまた違う味! 甘辛いタレによく合うな!」

「そうでしょう。これは俺が一年の時、植樹祭をサボった時に見つけた店で……」

「ジルト……ちょっと話が」

「つ、次行こうか次!」


大通りで一押しの店を紹介したら、ファニタにジト目で睨まれて、肩に手を置かれた。冷や汗をだらだら流しながら、ジルトは話題を逸らそうとする。


「店主さん、私にも一本」

「まあ気にすんなって。俺も公務をサボりまくってるからさ!」

「……」


ぐっ、とユバルに親指を立てられ、ジルトはなんとも言えない気持ちになった。

 



食べ歩きの後は、昼まで王都の散策だ。


トウェル王の王都再編には功罪がある。軍事施設という名の“禁域”を秘密裏に作ったこと。小さな川を埋めたてて、今や交通や運送には欠かせない運河を作ったこと。


今日はよく晴れていて良かった。


大通りから一番近い運河の水は、穏やかでキラキラと輝いている。ユバルとニェルハは、身を乗り出して運河の水面を見ていた。


「見ろよターゴ、でっけえ船!」

「こうしてみると、王国は、造船技術も発達しているのですね」


はしゃぐユバルに、感心してそうなターゴ。

背後で聞こえる得意げな声。


その光景に目を細めていたジルトは、運河の岸に佇む、一人の青年を遠くに見つけた。ブロンドの髪に褐色の瞳。その人物は、一輪の花を、運河に向かって放った。


「……」


なんだか、見てはいけないものを見てしまった気分だった。


「ジルト?」

「何でもないです。船、予約してあるんですよ。乗りに行きましょうか」




定期的には出ていないが、運河は船で渡ることができる。


貨物の駅に行って、ジルト達は早速、船に乗り込んだ。実は、ジルトも船に乗るのははじめてだ。


「水面が近い! 写真撮っていいかな!?」


この光景は視えていただろうに、ハルバは興奮して、カメラで何もない水面を何枚も撮っている。


「お子ちゃまめ、船ぐらい静かに乗っていられねえのか。見ろ、ラテラを。こんなに静かに乗って……ラテラ? おーい」


アントニーが、ラテラの顔の前で手をフリフリ。ラテラは、黄水晶の瞳を見開いたまま、固まっている。


「あ、気絶してるわ。これ」




「ごめんなさい。転覆したらどうしようって思ったら、気を失っちゃった」 


陸に上がった後、しゅんとするラテラ。ジルトは、ラテラの髪を撫でた。


「こっちこそ、ごめん。怖い思いをさせちゃったな」

「ううん、とっても綺麗だったから、楽しかった。チェルシー様と見た、あの海みたいに」


ラテラは、とっても幸せそうに笑った。その名前を聞いて、ジルトは、チェルシーに二度も助けられたことを思い出した。


一度目は、『左耳』。二度目は血液。二度目は、ジルトとしても不本意なことだった。ガウナにあれだけの態度をとっておいて、利用してしまうなんて。


けれど。 


「なあ、ハルバ」

「ん?」

「『神の左耳』って、死んだ人の声は聞こえないよな?」

「さあ? 俺は“目”だからわからないけど、もしかしたら聞こえるんじゃないか? 人は死んだら、魂の声だけは聞こえるから」

「……そっか」


ジルトは呟いて、左ポケットに手を入れてみて、苦笑した。ずいぶん元気な声だ。






「ていうか、いつまでストーキングしてるのです?」


恐れ多くも女王陛下である自分の背中をぽんと押してきたのは、夕焼け色の目をした少女である。リルウは、目をぐるぐるさせて捲し立てた。


「ストーキングじゃなくて、ちゃんと会話に混ざってたもの! お兄様の同じ串焼きを食べたりしてたし!」

「会話には混ざってなかったのです。それだけは言えるのです。はあ……この国の将来が不安なのです。好きな男の子一人に、声もかけられない女の子が君主だなんて」

「ふ、不敬っ、不敬罪!」


ぴーぴーと吠えるリルウに、嘆息するクレオ。少しだけ微笑む。


「とはいえ、愚かな父を許してくれたお礼に、一肌脱がせていただくのです。ジルトせんぱーい!!」

「待って、心の準備が……!」


リルウが、意味もなく髪を整えていると。優しく、肩を叩かれる。

そこには、リルウが愛してやまない、草色の瞳の彼がいた。


「さっきから、可愛い声がするなって思ってたんだよ」 


なんでもない王都の光景。そんな光景が、薔薇色の輝きを放つ。


リルウは、両手を重ね合わせて、ぎゅっと胸の前で握った。少しだけ俯いた後に、たんっと地面を蹴って、愛しい人の胸に飛び込む。


「!?!?!?」


ファニタが動揺する声が聞こえて、やっぱり私のライバルはファニタだけだとほくそ笑む。


リルウは、それを見られないように、ジルトの胸に頰を擦り寄せた。


「おかえりなさい、お兄様ッ!」

「ああ……ただいま、リーちゃん」


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