裁き
曰く、内乱罪である。
その罪は重く、今後同じようなことを考える輩が出てくることを憂慮して、被告人ゴート・アゼラは即刻死刑。彼の自宅から押収した数々の資料から、学問への興味ゆえという未必の故意も考えられず、取り下げの余地なし。
あまりに一方的な裁判は、ガウナ・アウグスト公爵が見守る中、王都ソマリエで行われた。
被告人はその罪を悔いるかのように一切沈黙し、火刑に処され死ぬ瞬間にも何も喋らなかった。
かくして、リルウ女王陛下を狙った地下組織『魔女の信徒』教祖ゴート・アゼラは死したのである。
ーー辞めるって言った時、殺してやろうかと思ったけどさ、こういう死に方ってないよね。なに内乱罪って。なに数々の資料って。
朝刊を読みながら、シンスは顔を引き攣らせていた。いくら金蔓が死のうが興味はない。もともとゴートを引き入れたのだって、伯爵という金銭的にもまあまあな位置の、まあまあ頭のいい奴だという理由からだった。
甘い言葉をかけてやれば、あの劣等感マシマシな羊ちゃんはお布施してくれるし、シンスのことを褒めてくれるし、シンスではわからない、学術的に見た『アッカディヤの魔術儀式』について話してくれるしで、悪い気はしていなかったのだ。
それがこのザマである。
あの時『魔女の信徒』を潰すとごたいそうなことを宣った公爵様は、集まった信徒たちに自らが薔薇の魔女の生まれ変わりであることを宣言し、いったん活動をやめるように呼びかけた。『魔女の信徒』であることを忘れ、市井に紛れて生きてくれと訴えた。
信徒たちは涙を呑んで聞いていた。それをシンスは静観し、今日この知らせが届いた。スピード裁判ってレベルじゃねえぞ。
「とにもかくにも、だ。たしかにこれで、『魔女の信徒』は動きやすくなった……けど、このやり方は弊害がありそうな気がするんだよなあ」
シンスは誰もいない部屋でひとりごちる。信徒たちはいないし、本格的に暇だ。
「あー、俺どうなるんだろ? なんかあのクソ公爵、俺まで使い捨てそうだよなあ……」
生きてられるかな俺。
そんなことを思いながら、シンスは爆睡を決め込んだ。
……彼はけっこうふてぶてしかった。
一方、王城の自室で執務をしながら、シンスにクソ公爵呼ばわりされたガウナは新聞の読み比べをしていた。大半の新聞社はガウナに好意的だ。内乱罪は、即刻死刑。その判断に誤りはなかったと書いてくれている。
当たり前だ。この国は、そういう国なのだから。ガウナは皮肉げに笑った。
この国は、魔法を忌避している。
魔法を使えない者にとって、魔法を使える者は恐ろしく映る。時として生命の不可逆性にさからい、又はそこまでいかなくとも、人を容易に傷つける手段は、持たざる者にとっては脅威である。だから、魔術師は迫害される。
さて、その“迫害される”側のガウナが、運命とやらに従って、より多くの人を殺すにはどうすればいいのか? 簡単だ。自分を“反対に”見せかければいい。
だから、ガウナは貴族の位を手にした。古来数々の魔術師を、裁判という極めて正当な手続きを踏んで死に追いやってきた、司法の側へと踏み込む権利と義務を、リルウに願った。
人を裁くことに快感を覚える貴族が更迭されていく中で、ガウナは被告人の話をよく聞き、時に冷徹に、時に温情をかけて、義務を全うした。ガウナの名声に一役買っているのが、この裁判での態度である。
人を裁くことを愉悦とせず、かといって、嫌悪感も抱いていない。必要なこととして貴族の義務を全うすることで、ガウナは司法に取り入った。
取り入る中で、ガウナには、この国の歪みが見えてきた。“魔法への忌避”である。
今となっては表立って見えないが、裁判基準の根底には、必ず“魔法であるかどうか”が存在する。特に、今回ゴートの件を担当した『公正中立』と誉れ高き王都の判事、トラス・アヴェイルは、隠してはいるが根っからの“異端嫌い”だ。
ゴートが『魔女の信徒』という団体の教祖だと吹き込み、数々の魔術儀式の論文を見せれば、いとも簡単に死刑を言い渡してくれた。内乱罪へと至らせるために、色々と勝手に脚色してくれた。来る日には、彼はとびきり良い方法で死に至らしめなければならないとガウナは思う。
いちばん懸念したのはゴートがどう出るかだが、彼はもともと親友を手にかけた罪悪感に苛まれており、また、クライスを通じて“細工”はしてあったから、簡単に死を受け入れてくれた。彼は最後まで、あの論文の価値を信じて死んだ。
かくして、薔薇の魔女の生まれ変わりであるガウナは、異端の身でありながら異端を裁き、自らの立場を装ったのである。
ここまでは計画通り。本当は、英雄式典の日にシンスを誘き出して処刑場へ連れて行き、『魔女の信徒』を一掃、ガウナの立場を“異端を裁く”側だと思わせる計画だったのだが。
あの灰色の髪の、いや違う、草色の瞳の少年のせいだ。ガウナは皮肉げな笑いをやめ、楽しそうに笑う。
「さてジルト君、君は一体、どう出るのかな?」
どう出るもなにもなかった。
「だから、君でしょ!? 伯爵邸の前で騒いでたセント・アルバートの子!!」
妙に目をキラキラさせた茶髪の女性に詰め寄られ、王都のグルメを満喫していたジルトはたじたじで……この騒動に、否応なく、巻き込まれていくのだった。




