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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
436/446

最短ルート

おそらく聖剣探しは、普通に順序立てて行ったなら終わらない。


ハルバのやるべきことは、近道を探すこと。予知によって、これから会う人物を特定し、会うべきか会わないべきか、判断することなのだ。


さきほどの、フランベルク紹介の面々との遭遇で、それを思い知った。セント・アルバートの先輩だからといって、会頭だからといって、安易に信用するべきではないが、相手の正体がわかっていれば覚悟もできるし、対策を立てることもできる。少なくとも正体不明の人物に会うよりかは、ものごとは早く進むはずだ。

 


……瞳を光らせれば、それまで視ることのできなかった光景が脳裏に浮かんだ。 


陽光煌めく水面の上を滑るようにして行き交う船。その船達が運んでいるのは、人であったり、貨物であったりする。やがて、船は運河の岸に設けられた駅に辿り着き、荷下ろしが始まる。


その荷下ろしをしている最中の男に、ハルバ達は何かを話しかけるが、追い払われてしまう。その後にランド会頭が男に話しかけると、一転、男は背筋を伸ばして、とある方向を指さした。 


これは現場に行ってみないとわからないが、おそらく、駅から降ろされた積荷がどこに行ったかの説明をしているのだろう。


そんなハルバ達の様子を見る人影が一つ。荷物を保管しておくための倉庫の陰。そこにいる人物を、ジルトが見つけ、その人物は逃げてしまう。


逃げてしまうからには、その人物は、聖剣の行方を知っている人物ではないだろうか。


ーーでも、わざわざ駅に行って怪しまれることはないだろうし……。


これからその運河の駅に行くのだが、揺れる馬車の中、ハルバはじっと、床を見ていた。正しくは、予知に深く入り込んでいた。


その人物は、小柄な人物だ。身長はそんなに無いだろう。フード付きの服を着ていて、まるで、姿を見られまいとしているかのよう。

唯一手がかりになりそうなのは、フードからちらりとのぞくブラウンの髪。ジルトの灰色の髪ならともかく、ブラウンなんてよくある色だ。


たとえばそう、


『私のファニタを振ろうなんて、いい度胸ですわね! わかりました。あの方の話はしないようにしますわ! ごきげんよう、ダグラス様!』

『なんでお前がごきげんようするんだよ!?』


ーーいや、まさか。


品行方正、プライドの高い友達思いの彼女が、こんな薄汚れた流通ルートに手を出すのだろうか?


疑問に思いながら、ハルバは、“彼女”の未来を予知して……


「まじかよ」


見つけた、最短ルート。

  





今日は休日。


普段は寮暮らしだが、久しぶりにここに帰ってきた彼女は、そわそわと屋敷の中を動き回っていた。


「うう、どういたしましょうか……口止め料は払ってきましたが、心配ですわ」


壁に沿って歩いたと思えば、ぴたりと立ち止まり、逆方向に向かって歩く。いてもたってもいられず、彼女は自分の部屋に行き、外套を羽織った。


「よし、これで私のことは誰もわかりませんわね!」

「お嬢様……?」


長らく屋敷に務めている執事が、彼女の行動に目を白黒させる。彼女は、ご自慢の巻き髪の上からフードを被り、にこりと笑った。


「少し出てきます。夕方までには帰りま、うひゃう!?」


彼女が変な声を出したのは、玄関の呼び鈴が鳴らされたからではなく、そこから知った声が聞こえたからだ。


「ま、まさか……」






「はぁ、予知能力者には敵いませんのね」


がっくりと肩を落とすのは、ブラウンの巻き髪が素敵な少女、レネ・フロワージュである。レネの態度に後ろめたい感じは一切なく、ハルバの予知で聞いた不審な動きとは程遠い。


だが、ハルバの予想は合っていた。なぜなら彼女の隣には、本来あった未来で彼女が羽織っていたであろうフード付きの外套が置いてあったからだ。


「完敗ですわ。たしかに私は、荷下ろしの方の口を封じようと思って、出かけるところでしたの」

「口封じ、か」 


ジルトは眉根を寄せた。レネは認めたのだ。自分が、ラグル商会の裏社会向けの流通ルートに関わったことを。


「悪いことは言わない。今すぐ、お前が買ったものを俺たちに渡してくれ。頼む」

「あら、何か都合が悪いものでも入っていますの?」


ジルトの言葉に、レネはくすりと笑った。


「いったい、何が入っているのでしょうか?」

「それは、言えない。けど、それを持ってたらお前は不幸になる。だから」


レネはゆるりと首を横に振った。


「残念ですが、それはできませんの。なぜなら私、その箱を、とある方に差し上げなければなりませんから」

「とある方って、誰だ?」

「お答えできませんわ」 


岩の如き揺るぎのなさだ。だが、それで十分だった。


「ありがとうレネ。邪魔したな」

「あら、良いのですか?」 


ソファから腰を上げたジルトに、レネは拍子抜けしたようだった。片手をポケットに入れて、ジルトは笑った。


「ああ。訊きたいことは聞けたからな」




フロワージュ邸から辞して、ジルトは、馬車に乗り込んだ。


「“それ”、すげえ便利だよな」

「まあな」


ハルバの言葉に、「ちょっとずるかったかな」と呟いた。

もともとガウナ、もとい魔女の声を聞かないための『左耳』だったが、ここに来て大活躍。ジルトは、レネに質問をすることで、レネが必死に隠していた、“とある方”が誰かを引き出していた。


「灯台下暗しってやつかな」


呟いて、馬車の窓から外を見る。


まだ全容は見えないが、特徴的な時計塔だけが、街の中から顔を覗かせていた……。

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