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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
435/446

二本目

白を基調とした部屋には、色鮮やかな花が花瓶に飾ってあったり、どこかで見たような女性の像が飾ってあったりする。どこかで見たというか、明らかに自分の母親だったりするのだが、それについては、ジルトは目を逸らすことにした。


そういえばここは、ジルトがクライスに気絶させられた思い出の場所だが、よくよく見てみると、気付いてはいけないことに気付いてしまいそうである。


フランベルク商会の面々と会った後、ジルト達は、近くにあるからと王都の支店へと案内された。ジルトとしては、少しでも早く聖剣探しを再開したいのだが、こんな往来で馬車が二台並んでいれば人目を引いてしまうということで、ここに来ることになったのである。


「引き止めてしまってすまないね。だが、私たちの持っている情報は、必ず役に立つと思うよ」


ジルト達の座るソファの向かい側には、ランド会頭をはじめとした、フランベルク商会の面々が座っていた。


「私たちが、君たちの目的に気づいたのは偶然なんだ。偶然、取引先のあちこちで、灰色の髪の少年の話を部下達が聞いてきてね。すぐにピンときた。これは、レアン君が会う予定の少年に違いないとね」


ランド会頭の言葉に、ジルトは首を傾げた。


ガウナが聖剣を紛れ込ませたラグル商会の流通ルートは、普通の流通ルートではなく、国から認められていない刃物を流すための独自のルートなのである。それの、取引先が被っているとなれば……ジルトの表情を見たランド会頭は、「あっ」と声を上げる。


「まあ、それはおいておいて。疑問に思った私は、“落下する羽通り”まで馬車を飛ばした。すると、一人寂しく君たちを待っているレアン君がいたというわけだね」

「別に一人寂しくは待っていませんが」

「どうどう」

「馬扱いはやめてください」


カルディアスはもう、フランベルク商会の一員であることを隠そうとしなかった。初めて会った時の爽やかな笑顔とは程遠い、据わった目で言う。


「それから、ランド会頭と打ち合わせ予定だったソリュース副会頭が、会頭を探すためにこちらに来て、我々三人は合流したのです」


それって、すっぽかしじゃあ……とジルトは思ったが、すっぽかさせたのはこちら側なので黙っておく。


「それから、バルフィン君達が行きそうな場所を三人で特定して、商会の人間を各地に遣ったというわけ。誰かが会えれば良いなって感じだったけど、そういえばそっちには予知能力者がいたんだっけと思って、三人まとめて行動してたんだよ」


アリアがニヤニヤと笑って、「ダグラス君はこちら側で、アドレナちゃんがあちら側なんだよね」と言ってくる。彼女の耳にも、ジルト達が食堂でやってしまったことは入ってきているようだ。


「早く仲直りしなね。私は君たちが仲良くしてるのを見るのが好きなんだからさ」


そう言って、


「もっとも、会頭は、君と女王陛下の仲を応援してたんだけどね」


少しだけ、寂しそうに笑って、ジルトの息を詰まらせた。


「ねえバルフィン君。会頭のことだから心配してないんだけどさ、ちゃんと笑って亡くなった?」

「……はい。最後に、母と仲直りできたんだと思います」

「そう。良かった。時間がないのにすまないね、こんな話をしてしまって。さて」


雰囲気を変えるように、ぱんっと手を打って、アリアは不敵に笑った。


「君たちが何かを探してることはわかってるよ。ウチの流通ルートと被っているくらいだ、何かまずいものに違いない」

「言っちゃったよ」


アントニーの言葉はもっともである。そんな言葉を聞かなかったかのように、アリアは続ける。


「結論から言えばね、君たちが探してるものは、もうルートには乗っていないと思うんだ。とある所で止まってる」






……地下では何も起きない。カンテラの光が灯っている限りは。


ーーでも、それって変じゃないか?


ようやく見えてきた光を前に、ハルバは考える。地下では、リルウが聖剣を突きつけたまま、事態が膠着しているのだ。


今、何を話しているのかはわからないが、この後の行動はわかる。リルウは、とある青年をガウナの前に突き出す。その青年は、目の下に隈を作り、瞳孔が開き切っている。その青年に、ガウナは優しく話しかけ、リルウはそれをつまらなさそうに見ている。


それでも、地下の様子は変わらない。誰も死なないし、誰も殺しはしていない。不気味なほどに、事態は動かないのだ。 


ーー何か見落としている?


ハルバは視る。ガウナを、リルウを、デウレスを、ルージュ秘書官を。


ルージュ秘書官もまた、腑に落ちないような顔をしていた。何も起こらないことに、疑問を覚えている顔だ。 


やがて、ガウナがそれを取り出し……






彼が指を鳴らす。何も起こらない。当然だ、『アッカディヤの魔術儀式』をするために必要なものは封じてある。


ガウナだけではなく、そのスイッチとなる青年、フェネル・シャンドラーも地下に連れてきているから、魔術儀式は発動しようがない。ガウナに魔力供給は行なわれず、トウェル王は召喚できない。よって、空間魔術も使えない。


ーーこれで、二本目。


確実に彼の手足は、一本一本もぎ取られているのだと、ブランは自分に言い聞かせた。


「やあフェネル君、君はどうしてそこにいるんだい?」 


魔術が失敗に終わったにも拘らず、ガウナは鷹揚な態度で、フェネルに質問した。フェネルは、「ふへへ」と、両手の指を組み合わせながら媚びるようにへつら笑う。


「魔女様のお役に立てると思い、馳せ参じました」

「うん、どうやって、僕の役に立つ気なんだい?」

「それはもちろん、がっ」


リルウの指示により、サーベルの柄で頭を殴られたフェネル青年が昏倒。


「なるほど、試させてはくれないわけだ」


ガウナの言っていることはわかっている。彼が『アッカディヤの魔術儀式』を使い、フランド警邏官から何かを得ているにせよ、確証が必要だ。血を流せば魔術は使えるようになるのか。それを、自分の身ではなく、フェネルの身で試そうとしたのである。


もっといえば、死ぬことと、魔術を使えることが、どちらが早いのかを、試そうとしたのだ。


「フェネル君を止めたということは、僕の仮説は当たっているわけだね。なるほど、チェルシーも賭けに出たものだ。つまりはリルウ、君の考えていることは、こういうことだね?」


ガウナが手を動かした。拳を握って、自らに剣を突き刺すように。


「血を流しすぎた僕が死ぬのが早いか、魔術が発動するのが早いか。勝負は時の運ってわけだ」


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