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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
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聖剣の行方

目を見開いたリルウに、ガウナは溜め息を吐く。


「“どうしてだと思う?”って、ちょっと前までの僕は余裕綽々で訊いてたんだろうね……下手な嘘はやめろよリルウ。どうせ、予知だの予測だのでわかっているんだろう?」

「あら、残念」


ガウナの心臓めがけて、ひたりとつけた聖剣の刃先を離さずに、リルウは肩をすくめた。腐っても四年、隣にいたのだ。下手な演技なんて、お見通しである。


魔法も魔術も使えない地下で、それでも優位に立つには、聖剣を使うしかない。


『ですが、彼は聖剣を地下に持ち込むことはしないでしょう。今はどこにあるのかわかりませんが、もう一つの、もともと彼が持っていた聖剣が出てくる可能性もありますし』


ファニタの言葉が蘇る。面白いくらいに、事態は彼女の読み通りに進んでいる。彼女は、明らかにリルウを疑っていた。聖剣の話をするときに、少し視線を落として、リルウの腰元をじっと見つめていたからだ。


ーーごめんね、ファニタ。


だが、リルウはそれを言うことはできなかった。言えば、止められてしまうからだ。この男を殺すことを。


『だから彼は、聖剣を別のことに使おうとするでしょう。たとえば、聖剣を』






ばんっ!!


ほとんどドアを蹴り開けるようにして、ジルトは木箱の積まれた部屋の中に、ずかずかと入っていく。


「なんだ、このガキっ……っ!?」

「剣はどこだ」

「は、剣?」

「違う、ナイフだ、ナイフはどこにあるかって聞いてんだよ!」


椅子に座っていた男の胸ぐらを掴んで、荒々しく引き倒す。


「あるだろ、ラグル商会から(おろ)されたナイフが!」

「ナイフったって坊主、そんなの、大量にあってわかんねえよ、あだっ!?」


ジルトはポケットの中にある『左耳』を触った後、男の胸ぐらからパッと手を離し、木箱へと駆け寄った。


一つの木箱を開ければ、刀剣類や刃物が、ぎっしり詰まっている。


「くそっ」


木箱に手を突っ込んで、ジルトは中を漁った。


「これも、これも違う」


チェルシーから渡されて、セブンスの元に渡り、聖剣となったナイフ。かつて自分が持っていたものだから、すぐにわかるはずなのに。


「〜〜っ!!」


たまらず、ジルトは木箱の中をひっくり返した。それでも、見慣れたそれは見つからない。


「先輩、ジルト先輩」


ジルトが血走った目で、それを探していると。


「落ち着いてくださいなのです」


聖剣探しに協力してくれているクレオが、目の前に立っていた。その夕焼け色の瞳に見つめられて、ジルトは、冷静さを取り戻していく。


ふう、と息を吐いた。


「すまん、クレオ。取り乱してた……」

「先輩の気持ちはわかるのです。ですが、焦ったって、聖剣は見つからないのです」






「だいたい、セブンスの聖剣は、僕の聖剣に敗れたんだよ? 君がそれを持ってることは予想してたし。そんなものを持ってても、殺されるだけじゃないか」


サーベルと聖剣を突きつけられながら、今度はガウナが肩をすくめる番だった。リルウは目を眇めた。


「だから、ラグル商会の流通網を利用して、聖剣を裏社会に流したのね」

「やっぱりわかってるんだね。あの呪われた剣がどこかの誰かに渡ったら、どれだけの人が死ぬんだろうね」

「それで? 聖剣の場所がわかっているのは自分だけだから、見逃してくれとでも言うんでしょう」


『彼は脅しをかけてきます。命乞いならまだ良い方。だけど、あの人のことだから』


リルウの言葉に、はたして、ガウナは目を瞬いて。


「そんなこと言うわけないだろ? 聞いてたね、君たち。そういうわけで、聖剣は地上に置いてきた。僕から聖剣の場所を聞き出す方法はただひとつ。リルウを殺せ」


ーーええ、ファニタ。貴方の予想は完璧だわ。


欲深いこの男は、リルウではなく調査隊員達に語りかけた。






馬車に乗り込み、ジルトは待っていたハルバ、アントニーと合流した。


「どうだった?」

「ハズレです。どこにもなかった……」


アントニーの言葉に、ジルトは力なく首を横に振った。


ハルバが予知で視ることができるのは、名前と顔を知っている人物だけ。故に、聖剣がガウナの手から放された瞬間から、追えなくなってしまうのである。


それでも、ラグル商会の一人娘であるクレオの協力と、アントニーやトランをはじめとした裏社会に通じている人々の協力もあり、聖剣の流通先の候補を挙げることはできたのだが。


「時間が足りない、これじゃあ、リーちゃんが」

「なあ、お前、人の考えが読める耳を持ってるんだろ? だったら、あの元公爵に聖剣の場所を聞いてきた方が早いんじゃないのか?」


アントニーが、座席にもたれかかりながらそう言う。ジルトとハルバは、それに答えようとして、答えていいものか迷い。


「アウグスト元公爵がしたのは、流すことだけなのですよ」


代わりに答えたのはクレオである。


「聖剣とやらが今どこにあるか、彼にもわかってないと思うのです。ラグル商会の流通網は、隠蔽に長けているので」

「え、馬鹿じゃねアイツ。わかんねえのにわかってるフリしてるの? 当然、女王サマもお見通しなんだろ? だったら、命乞いの意味ないだろ」

「でも、陛下はその脅しに乗るしかないのです。聖剣の場所がわからないとなったら」

「あー、そうか」


ぽん、とアントニーは手を打った。


「地下にいる場合じゃないってなって、千載一遇のチャンスを逃すかもしれないってことか!」






だから、この男の言葉に乗るしかないのだが、この男が場所をわかっていることを肯定すると、迂闊に殺せない空気が醸成されてしまう。


ーー殺したいのに殺せない。それを打開するために、私はこの男の手の内がわかっていることを、この場で開示した。それが“先読み”できていたことを、調査隊員達に知らせることができた。


それなら、地ならしはじゅうぶんだ。


リルウは、できるだけ傲慢で、自信に満ちているような表情を浮かべた。


「答えはノーよ。なぜなら私は、貴方が流した聖剣の行方を掴んでいるから」

「ああ、なるほどね」


ガウナはリルウの考えを読んだだろうが、それを否定する術もないし、メリットもない。命綱は多い方が良いからだ。


「リルウ、やっぱり君はあの男の血をついでるんだよ」

「最大の侮辱ね」


せっかく浮かべた表情には、少しだけ自嘲が混じってしまったように思う。


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