表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
最終章その3
431/446

選ばれし者達

そもそも、“禁域”とは何か。


それを定義するならば、戦後の王都再編の際、トウェル・ソレイユによって作られた施設のことであるといえよう。


代表的なものとして、『アッカディヤの魔術儀式』ほか、外法を研究していた王立総学研究所(通称・学者達の檻)、噂では、死体を無断で解剖していたユーフィット醫院が挙げられる。


つまり、戦前からある王宮地下は、純粋な禁域ではない。トウェル王の先代、シド王も関与していたこの場所は、言うなれば、“準禁域”である。


このようなことを踏まえて。調査隊員は、不思議でならなかった。


共和国との和解で、資金提供をする必要もなくなり、あるかもわからない財産に頼る必要もなくなったのに、なぜ、重要度の低いこの場所から調査をすることになったのか。なぜ、自分達は重装備でこの場所に臨んでいるのか。


まるで、未知の敵と戦うことを想定しているかのように。


背筋にひやりとしたものを感じながら、同時に彼らは、誇りを感じていた。えてして未知に挑む者は、優秀でなければならない。何事にも動じず、予想外の出来事にも対処できるからこそ、彼らは選ばれたのだ。


しかも、彼らの前には、この国の頂点である女王陛下がいる。四年前はどうなることかと思ったが、今や彼女は立派に政務を果たすまでになっていた。


その女王陛下の御前で、未知の“禁域”の調査をすることができる。これは、たいへん名誉なことである。




一人の調査隊員が、顔を顰めた。


無理もないだろう。地下へとつながる通路ともいえない綻びからは、腐敗臭が漂ってくるのだから。夏のじっとりとした空気は、冬のからっとした空気よりも、よりその臭いを空中に留まらせている。その臭いは、自身の体にもまとわりつくように思えた。調査隊員達は、この“禁域”調査が、一筋縄ではいかないことを悟った。


一人の頭の中には、トウェル王の前、シド王のとある噂が浮かんでいた。身寄りのない子供達を地下に集めて、血を抜いたり、体の一部を使って儀式をしているという、突拍子もない噂である。それには、代々王宮魔術師を務めていた、あのレイク家も関わっていたというが、噂は噂である。




死臭は、地下に行けば行くほど濃くなった。調査隊員達は、もうすでに死体の存在を疑っていなかった。死体は見えないが、調査隊員達を囲む土に染みついた臭いが、もうすぐそこにあると教えてくれている。


いくらかの調査隊員は、おかしなことに気付いた。


この臭いを嗅いだ調査隊員の多くは、動揺をしている。彼らは選り抜かれた人員なので、表情や態度にはおおっぴらに出さないが、一人一人の微小な反応が、小波を生んでいた。


しかし、この“禁域”調査を計画した当の本人はというと、むせかえるような死の臭いに囲まれているにもかかわらず、平然としているのである。それは、女王陛下も、アウグスト元公爵も同じ。唯一、デウレス・ラグル会頭だけが吐き気を抑えるように、口に手をあてているのが、正常な反応だった。




それにしても、この地下は異常である。


カンテラに照らされた地下を見た調査隊員の頭の中には、“居住”という言葉が浮かんだ。


到底、人が住めるはずもない地下である。が、ここまでの長細い道が一気に開けて、ぽっかりとした空間に出た途端、そのような言葉が浮かんだのだ。ここは部屋だ、誰かが暮らしていた。


なぜか、そのような確信があった。シド王の忌まわしい噂のせいもあるかもしれない。 


もしかしたら、子供の骨くらいは見つかるかもしれないと、ある調査隊員は思った。




はたして、積まれていたのは、子供の骨だけではなかった。


むしろ、大人の骨の方が多いと言えるだろう。正確な人数はわからない。一人の人間の白骨は、他の人間の白骨と混ざり合ってしまっているからだ。


問題は、この骨が誰のものであるかだが、それは、容易に推定できる。骨達は身なりがいい。ドレスにタキシード、まるで、パーティーに赴くかのように。


そしてこの骨達は、不可解なことに、殺傷の痕があった。なにか鋭利なもので傷つけられた痕である。調査隊員達は、この骨達の死因が、火傷か、それに伴うものかと考えるのは、間違っていると悟ったのである。


彼らは、ここで、殺されたのだ。




これこそが、ブラン・ルージュ秘書官が、ここを真っ先に調査した理由。


四年前に王都を悲しみに包んだ大火の裏には、凄惨な殺人が存在したのである。


なるほど、それを調査しなければならないのだと納得するには。

状況は、揃いすぎていた。


「構え」


調査隊員達の中には、シリウス・スピレード元内務大臣兼元陸軍参謀の教え子もいた。女王陛下の冷ややかな号令に、彼らの背筋は伸び、サーベルを突きつけた。


……敵は、すでにわかっていた。


サーベルの先にいるのは、銀髪の元公爵である。


「やっぱり、髪は回収するのは難しい」


彼が言う通り。この地下には、ところどころに、一見すると老人の髪のようで、よくよく見ると彼の白銀の髪が落ちているのである。

ここに集められたのは、選ばれし者達だ。観察力に長け、詳しく言わずとも、最良の選択ができる者達。


ガウナ・アウグストに反撃の隙を与えず、制圧することができる者達である。






リルウ・ソレイユは土を踏み締める。鞘から引き抜いた小刀を、真っ直ぐにガウナに突きつける。


藍色の瞳が歪んでいる。


「そうか、君が持っていたのか」

「ええ、お兄様じゃなくて、残念だったわね」

「残念じゃないさ。荷物運び、ご苦労様」


戯けて言うガウナの心臓を、リルウは容赦なく聖剣で突こうとし。


「……貴方、どうして聖剣を抜かないの?」


彼が持っているはずのものがないことに、目を見開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ